Les Bois Perdus – Chap.06

レ ボワ ペルデュのレナとアレクシ

最終的にあの年のあのブドウのワインは廃棄することにしたの。そう、非常に悲しい決断だったわ。

Léna Perdu / レナ ペルデュ

美意識と日々の選択

「迷いの森」という美しい名前を冠したレ ボワ ペルデュは、レナとアレクシの2人が二人三脚で自然派ワイン造りに勤しむ南フランス アルデッシュ地区のドメーヌです。

2人を尋ねるときにはいつも、美しい渓谷の森のなかを進み向かうのですが、その渓谷の細道具合には、何度行っても慣れません。

緊張しつつようやく辿り着いた先には、2人とその子供たちの美しい住まいがあります。

南仏らしい明るいカラーの建物、渓谷を眺めるテラス、庭に広がる自分たちのための小さな菜園、子供たちの秘密の小屋、そのどれもが美意識をもって丁寧に選択されたであろうことを感じます。

オリーブの木、アーモンドの木、羊、鶏、そして自分たちで植樹したブドウと身の回りには自然の恵みに満ちています。

「ここは楽園かな?」なんて思ってしまう絵に描いたような幸せで美しい景色ですが、これは2人が、並々ならない美意識をもって、丁寧に選択を重ねた結果です。

そして、こうした美意識を持っている2人だからこそ生み出せるワインがあるのです。

ワインも意思ある選択の積み重ね

自然派ワインと言えば、「人の介入を可能な限り減らし…」とよく紹介されます。これはもちろん正しいのですが、一方で、最小限の介入であるからこそ、造り手のひとつひとつの選択が、ワインの仕上がりに大きな影響を与えます。

この日々の小さな選択ひとつひとつにどんな意味を見出しているか、この点が造り手によってワインの表情や表現が異なる理由なのだと思います。

レナとアレクシ、2人の美意識は、こうした日々の選択に反映され、レ ボワ ペルデュのワインに2人の署名をしっかりと刻んでいるのです。

数年来、2人と付き合っていて顕著に感じるのが、彼女たちが自分たちのワインに対して非常に厳しい目を向けていて、ストイックにその本質を評価しようとしている点です。

造り手によっては、「だって自然だし…」と、自身が満足しきっていなくてもそのまま販売してしまうなんてことがあります。しかし、レ ボワ ペルデュの2人には、そういう選択肢はないようです。

ワイン造りには非常に長い時間がかかるので、キャッシュフローを考えてもできるだけ早くワインを売りたいものです。しかし2人は、自分たちが納得しない状態では瓶詰めも行いませんし、場合によっては、瓶詰めしたワインをさらに熟成させてからしか販売しません。これは、2019年が初ヴィンテージという新興の造り手には、非常に厳しい選択です。

さらに驚いたのが、ある年のあるキュヴェに関しては、最終的に自分たちの納得いくワインには育たなかったと判断し、瓶詰めを断念(廃棄)したと言うのです。

「非常に悲しい決断だったわ」

そう語ってくれたレナの目からは、単に悲しみだけでなく、彼女たちの強い意思が見てとれました。

「あなたたちのその姿勢は、誰しもが持てるものではない。だからこそ、僕はあなたたちを心から信頼しているよ」

そう話しながら、本当に良い友人に恵まれたなと幸運を噛みしめたのでした。

もちろんワインは、自然の恵みの産物です。暑い年もあれば雨が降る年もある。しかし、レ ボワ ペルデュのワインには、どんな年であっても2人の美意識が刻み込まれています。

+ 造り手紹介

Libelulle / リベリュル

ヴィンテージ:2022
タイプ:白
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:ユニブラン 50%、ルーサンヌ 25%、マルサンヌ 25%

キュヴェ名のリベリュルはフランス語で「トンボ」の意味。ユニ ブラン 50%、ルーサンヌ 25%、マルサンヌ 25%のアッサンブラージュ(ブレンド)で造られています。

2022年は、暑さに見舞われた年にも関わらず、表示アルコール度数が11.8%とライトな仕上がり。草原をイメージさせる爽快なハーブのニュアンスと柑橘のフレッシュな風味に暑い年らしい香ばしさも加わります。果実味的にはフルーティーというよりもしっかりと凝縮した雰囲気があり、輪郭がしっかりと削げています。

一緒に楽しむ食事に関しては、ハーブを効かせた豚肉のソテーや柑橘や梅といった酸味を効かせたお料理と抜群の相性です。これからの季節だと鱧なんかも良さそうです。

ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、全て直接圧搾され、アッサンブラージュ(ブレンド)されています。自然酵母のみでステンレスタンクで発酵させ、そのまま熟成し、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。

Polichinelle / ポリシネル

ヴィンテージ:2022
タイプ:白
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:ソーヴィニヨンブラン 100%

キュヴェ名のポリシネルは「イタリア笑劇や人形劇での道化役」の意味。ソーヴィニヨンブラン 100%で造られていますが、造り手いわく「ソーヴィニヨンブランらしくないソーヴィニヨン」とのこと。

暑さに見舞われた2022年らしく、果実味はしっかりと削げ果実の熟した甘さは香りにだけ残すのみの骨格のしっかりとした香ばしい味わい。夏の南フランスのブドウ畑に立つと、風が吹くたびにローズマリーやタイムの凝縮した香りを感じますが、そんな「南仏の畑での風」を思い起こさせる夏のハーブの風味に満ちたワインです。

辛味のあるオリーブオイルと夏野菜をたっぷりと使った料理やローズマリーやタイムを効かせた魚料理、ヴィネガー風味の豚肉のローストなどと相性が良さそうです。

ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、自然酵母のみでステンレスタンクで発酵させ、そのまま熟成し、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。

Embrasse-Moi / アンブラッセ モワ

ヴィンテージ:2022
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:カリニャン 50%、サンソー 50%

キュヴェ名のアンブラッセ モワは「キスして」という意味で、ちょっとキュンとさせられるエモーショナルなネーミングのワインです。

明るくも淡い美しい色調とグラスに入れた瞬間から溢れ出す赤いスグリやベリーの甘酸っぱい香り。どことなくジュラのワインを想起させるような滋味深い果実味と長い余韻があり、旨味がたっぷりと感じられます。

小さいけれど熟した果実をついばむ鳥のような気持ちになれるチャーミングなワインで、一粒ついばめば、すっと空高く飛んでいけそうな外向的なワインです。

あらゆる料理に合いそうなスタイルで、ハーブを効かせた焼き魚からローストした肉料理、ミントや豆をたっぷり使った中東っぽい料理もオススメです。

尚このワインは、抜栓後はその日のうちに飲んでしまうのがオススメです。

ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、自然酵母のみでステンレスタンクで発酵させ、そのまま熟成し、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。