グザヴィエ・マルシェの収穫チーム

何で会社名が”be a good friend”なの?

「長すぎる」
「英語なんだ」
「good friends じゃなくて a friend?」
「あなた、そんなにフレンドリーじゃないよね」

色々言われることの多いこの会社名ですが、個人的にはこの名前が降ってきてから、自分の生涯の仕事のビジョンが定まったので、何が何でもこれにしようと思っていました。

インスピレーション

名前が降ってきたと書きましたが、本当のところはとある場で教えてもらった言葉からインスピレーションを得て生まれました。

その場とは、那須のChusというマルシェとレストランとゲストハウスを備えたお店でした。

この場所で、2017年9月22日にパタゴニア日本支社長(当時)である辻井 隆行さん、一般社団法人エシカル協会 代表理事の末吉 里花さんを招いてのトークライブイベントとパタゴニア社が制作した映画の上映会がありました。

・環境問題
・エシカルという概念
・当時パタゴニア社が取り組み始めた「パタゴニア プロビジョンズ」という食品事業のこと

個人的な興味にもドンピシャなお話を沢山聞かせて頂きました。

良き母でありなさい

こういうトークイベントの後半には必ずある質問タイム。実は、こういうイベントに参加した時には必ず質問するように心がけています。

イベントで話されていた内容は、自分自身の興味と重なる部分も多く、非常に共感できるものでした。そんなトークを聞いた後に私がした質問は…

「自分たちは、紹介されたような環境に優しい生き方をできる限りですが、心がけて暮らしています。一方で色んな方にこういう取り組みを伝えて、広げていくのが難しいと感じています。」

「なかでも、良いことに取り組みたいけれど、どうしても生活に余裕がない、お金が足りないと言わることがあります。どう取り組みの輪を広げていけばよいでしょうか?」

この質問に対して、こんなエピソードを教えていただきました。

アメリカの貧しい人が多く住む地域の教会で、主に子供を持つ母親向けに健康な食の大切さを話す会があったそうです。

子供の将来のためにも安心・安全な食を提供することを促す内容だったとか。その会合に参加していたとある母親が質問しました。

「子供のために良い食品で良い食事を提供したほうがよいのはわかったけれど、私たちにはその余裕がありません。どうすればよいでしょうか?」

その話者は少し考えた後にこう答えたと言います。

Be a good mother.
良き母でありなさい。

これを聞いた瞬間、雷に打たれたような感覚になり、思わず天を仰ぎ見ました。

まず、この言葉は、質問をした母親に対してもすごく愛のある言葉だなと思いました。

こういう場合、「なんとか頑張れ!」や「こうすれば実現できるのでは?」と精神論や具体的なアドバイスをしようとしがちですが、それは諸刃の剣です。

「できないのは自分のせいでは」と感じる場合もあるでしょうし、自分の子供の将来に関わるものだとすると母親の罪悪感は深いものになります。

この言葉に心打たれたのは、こういう食事をしなさい、こういう生き方をしなさいと諭すのではなく、「あなたが良い母親であろうとし、それを忘れなければ、あなたが子供のために思って為したことは、全て正しい。」そういうメッセージだと感じたからです。

健康に良い食事を与えなければいけない。
良い教育を受けさせなければいけない。

この〜しなくてはいけないという圧力が人間を思い悩ませ、自身を攻めることにすら繋がります。でも、普遍的で唯一無二の正解があるわけでないのです。

良き母であろうとすることは、すぐに誰もが実践できることでもあります。毎日様々な選択に迫られるなかで、常に「良き母であることとは」を考え、ひとつひとつの選択と決断を重ねていけば、ただそれだけで良いのだと。

他人は変えられない

翻って、自分自身はこれまで、他者を変えよう変えようとばかり考えていなかったかと思い返します。

オーガニックの食品を選ぼう!
環境に配慮した生き方をしよう!

と、自分の信じる正義を胸に声高に叫んで回っても、必ずしも多くの人の共感を得られるわけではないのも、それぞれの人の境遇や経験は、それぞれ全く違うものであるからです。

そう、それにはすでに気づいていました。

いつからだったか、「他人と過去は変えられない、変えられるのは自分と未来だけ」という言葉を知っていたからです。

ただ、自分が変わるだけでは変えられない未来があるのも知っていました。そこに思い悩んでいたのです。

アメリカの教会の例では、母親に関してでしたが、これを自分が仲間を募るにはどうすれば良いだろうか… その時にひらめいたのが

be a good friend
良い友だちになりましょう

でした。

友だちだから買う、友だちだから話を聞く

これは、会社のコンセプトを説明する時によく話すたとえ話なのですが、高校時代の中の良かった友人が、突然脱サラしてオーガニックジーンズを作りはじめたとします。

そのジーンズは良い素材を使い、職人さんたちの手で作られるものであるため非常に高価です。たとえば1本30万円するとします。

そんな時、自分だったらその友人に

「どうして脱サラしてまでそのジーンズ作ろうと思ったの?」
「どうしてそんなに値段が高いの?」
「普通の手頃な価格のジーンズと何が違うの?」

と質問攻めにすると思います。

そして、その友人の想いと説明に納得したら、仲の良かった友だちだからと1本自分用に購入すると思います。

この時の感覚は、同じジーンズでもプレミアやブランドに対価を支払うのとは全く違ったロジックで生まれるのだと思います。

そして、そのジーンズが対価に見合う本当に満足できるものであった場合、私はまた別の友人に「このジーンズがいかに素晴らしいか、どんな人が、どんな想いで作っているか」を熱っぽく伝えてオススメしていくと思います。

何の話?
と思われた方すいません。

言いたかったのは、そのモノの品質や価値を評価するだけでなく、そのモノは、誰かが、この世界のどこかで、泣いたり笑ったりしながら作ったのだというリアリティを感じてもらえると嬉しいなという事です。

とはいえ、日々の消費から、作った人のことをいちいち思い起こすなんてことはできないよというのが普通だと思います。でも、前述の例のように仲の良い友だちが作ったものだったら…

ジーンズに足を通す度に友だちのこと思い出しますよね。

友だちならではのリアリティ

そうか、私の仕事は、飲み手に造り手の友だちになってもらうことなんだ!自分の仕事の進むべき方向が言語化された瞬間でした。

当時から私の仕事は、輸入した自然派ワインを販売することです。そして、この業界で働く人の多くは「造り手の想いを伝える」と看板を掲げて仕事をします。しかしながら、飲んでくださっている人みんなが、造り手の想いに共感してくれるという状況の実現には程遠いというのが正直な感想です。

今思えば、想いを一方的に伝えても伝わるはずがないということが少し理解できます。私自身も誰かに自分の「正しさ」を押し付けようとしていたのかもしれません。

日本でもとても人気があるワインの造り手が、実は毎年のように生じる異常気象に苦労していること。その事実を色んな形で世に発信しても、なかなか共感してくれる人を見つけるのが難しかったです。

「昨晩、雹が降って、今年の収穫量は半分になっちゃった」

そんな話を聞いてもピンとこないのもわかります。でもこれって

「昨日寝て、起きたら今年の年収(売上)が半分になってた」

みたいな話なんです。しかも自分のせいでそうなったわけでもないんです。何ならその原因は、私たちの生き方にあるかもしれないんです。

大変なんだ!わかって!共感して!
まあ、そんな風に叫んで回っても、なかなか理解してもらえませんよね。

でも、これが友だちの話だったらどうでしょう?

「え?朝起きたら年収半分になってた?どういうこと!?ヤバいやん」
「何かできることあったら言って!」
「え?もしかしてその原因って、回り回って俺のせい?」

リアリティ半端ないですよね?

この気づきをもらって、「伝えようとする」のではなく、「友だちになってもらう」ことを仕事の軸に据えようと決意しました。

会ったこともないのに友だちになれるの?

ワインに関して言うと、造り手と飲み手である私たちの間には、大きな距離の隔たりがあります。

世界は小さくなったとはいえ、みんながみんな会いに行けるわけでも、一緒に食事を食べれるわけでもありません。

これじゃあ、友だちになんてなれないんじゃあ…

そんなことはありません。

友情に物理的な距離は関係ないのです。大事なのは心理的な距離。数奇な運命をたどって自分の目の前にまで届いたワインや食べ物から、美味しさ以上の感情のゆらめきを感じたのだとしたら、その糸をぜひ手繰ってほしいのです。

そこには、遠く離れたどこかで、いまその瞬間も泣いたり笑ったりしながら自然と対峙して生きている人たちがいます。彼らの顔が思い浮かんで、その生き様に共感できたとしたら… その瞬間から私たちはもう友だちなのです。

同じ大地の上で、同じ空の下で、これまで顔を会わせたことがなかったとしても。自分がまず良き友人になろうと想えば、心と心を通い合わせることはできると信じています。

be a good friend

さて、長いだの、英語間違ってない?など色々言われる会社名ですが、じゃあどうして Let’s be good friends! ではないかというと…

友情は、私たち一人一人の内なる共感からはじまると思ったからです。

だから
be a good friend

この長い会社名を、電話に出るときも、メールを書くときも、ずっと発し続けます。

なぜなら、その度にみんなにシグナルを送れると思ったから。

さあ、みんなで良い友達になりましょう。共感と優しさでこの世界を満たせば、未来は思いのほか明るいものになると思います。

be a good friend の会社としてのファーストステップは、「幸せな食卓で未来を明るくする」です。

美味しくて、幸せで、未来まで明るくしちゃうんですから、仲間にならない手はないですよね。