Domaine Petit Poucet – Chap.01

ジェラール ブレス 畑にて

祖父はブドウ農家だったんだ。ただ、自家用にワインを造っていて、ブドウの収穫風景や家族でのワイン造りの様子を覚えている。その思い出があるから、自分でもAからZまでやってみたいと思ったんだよ。

Gérard Blaess / ジェラール ブレス

胸いっぱいの愛をボトルに込めて

またまた新しい友人のご紹介です。

彼の名はジェラール ブレス、アルザス屈指の小さな生産者であるドメーヌ プティ プセのヴィニュロン(ブドウ栽培者・ワイン醸造家)です。

こうした新しい友人と出会う機会は、私にとって非常に希少で貴重な瞬間です。

ジェラール ブレス 冬の畑にて

よく「どうやって、新しい造り手と出会うのですか?」と聞かれることがありますが、本当に不思議なもので、犬も歩けば…ではないですが色んな人と会い、語らい、飲んでいる時に良きご縁をいただきます。

期せずしてアルザスに足繁く通うようになり、人から人へとつなげてもらって、また皆さんにぜひとも紹介したい造り手に出会いました。

「お付き合いをお願いする造り手はどうやって決めているのか?」と聞かれることもあります。これは、美味しいワインということはもちろんなのですが、こうして新たな出会いを得たときに考えるのは、末永く共に歩んでいけるか…です。

こうしたことを理解するためには、やはりワインが生まれる場所に行かなくてなりません。

ジェラールの第一印象は、「エネルギッシュな人だな」でした。

ドメーヌの住所を訪れるとそこは住宅街のど真ん中で、醸造所というよりは自宅です。戸惑いながらドアベルを鳴らして中に入ります。半地下のガレージに相当する部分を改装したセラーには、所狭しとしかし整頓された状態で熟成中のワインが置かれていました。

どんなワインを造っているか、どういう風に造っているかとひとしきり説明を受けた後、デンポよく試飲に進みます。普段の彼の主たるお客さんは、こうしてセラーを訪れる一般の顧客だと言います。だから、こうやってワインを紹介する機会は多く、説明が非常にスムーズだったのかなと思っています。

この時点での私のワインの感想は「自由奔放」だなというもの。彼自身が思い描く通りのワインに矯正しようとするのではなく、ワインそのものをのびのびと育てているという印象です。

ワインも人もこの短い時間だと計り知れないなと思っていたタイミングで、畑を見てみたいと申し出ました。彼もあまり時間に余裕がないタイミングだったのですが、「それじゃあ行こう!」と快諾してくれて、自宅からそう離れていない場所にあるドメーヌ プティ プセの畑に向かいます。

受粉したばかりのブドウの赤ちゃんを慈しむジェラール

畑に行って、私のジェラールの印象はまた少し変わりました。

畑でのジェラールは、少年のようなキラキラとした目をブドウたちに向けていました。短い時間でしたが、一緒に畑を散歩しつつも彼がウキウキしているのが伝わってくるのです。

「ああ、心から好きでこの仕事に向き合っているんだな」

かつて、素晴らしい造り手たちと一緒に畑を歩いた時に感じた想いと同じ感情が、この日も感じられました。

以前、どこかで話したかもしれないのですが、私はブドウ畑を見ても、そこから素晴らしいワインが生まれるとか、この造り手は素晴らしい仕事をしているとかを判断することはできません。

しかし、一緒に歩く造り手たちからは、この人と長く共に歩めるのではないか…といった期待を抱くことができます。

こうしてまた新しい造り手であり、友人を皆さんに紹介できることは嬉しくてなりません。ちょっと奔放で、ちょっとお茶目なドメーヌ プティ プセのワイン。ぜひ試していただきたいです。

祖父との思い出のブドウ畑に、自分も愛を注いでいきたい。

ドメーヌ プティ プセはアルザス屈指の小さなドメーヌです。その畑の面積は、1haにも満たない70aほど。当然のことながら生産量も極僅かです。

このドメーヌがスタートするきっかけとなったのは、ジェラールの祖父の存在です。

ジェラールの祖父は、ブドウの栽培者ではありましたが、生業としてのワイン造りは行っておらず、あくまで個人的な自家消費用としてのみワインを造っていました。

ジェラールは、彼が子供の時に見た収穫風景や家族でのワイン造りの光景、そして祖父のことが大好きでした。

ドメーヌ プティ プセ 畑

それから時は流れて1990年代の終わり頃、ジェラールはこの思い出の畑を継承することになります。この思い出の畑で、最初から最後まで全てのプロセスに携わり、最終的にボトルに何が残されるのかを知りたいとヴィニュロン(ブドウ栽培者・ワイン醸造家)になりました。

しかし、70aほどの畑では専業で生きていくことはできません。当時、彼は電気機器の会社で働いていましたが、その仕事も継続しながらワイン造りを行う道を模索します。

週末や退勤後の時間を費やして、当初から有機栽培を実践し、少しづつ自宅の小さなセラーでワインをボトリングしていきました。

兼業でのワイン造りということもあって、生産量は毎年極僅か。そのため彼のワインの多くは、自宅兼セラーを訪れる一般顧客に直接販売されます。

「クリスマス前になるべく早く注文してね。クリスマスマーケットでは、沢山ワインが売れるから、その後だと無くなっちゃうよ。」

セラーに一度訪れて見れば、この言葉がセールストークでは無いことはよくわかります。

そんなドメーヌ プティ プセのワインは、どれも自由奔放で生き生きとしたワインたち。好奇心が強いであろうジェラールの人柄が反映されていて、既存の枠組に囚われていません。

一方で、その奔放さをしっかりと下支えしている存在が祖父から受け継いだ畑のポテンシャルです。

わずか70aの区画の中には、グランクリュ(特級畑)シュタインクロッツが含まれ、高いテンションのミネラル感と力強い凝縮感をワインにもたらしてくれています。シュタインクロッツ以外の区画も、硬質でシャープなミネラル感と厚みのある果実味が、開放感ある味わいながらもどこか引き締まった印象を与えてくれます。

ジェラールと一緒に畑を歩くと、彼がどれだけこの畑を愛しているかが感じ取れます。キラキラと好奇心に満ちた少年のような目をして、1本1本のブドウ樹を慈しむように眺める姿から、心からこの仕事が好きなんだと確信させてくれます。

その溢れんばかりの愛は、しっかりとボトルに込められています。なぜなら、彼のエチケット(ラベル)にはしっかりと「瓶詰めは愛と共に」と記され、それでも溢れる愛がキャップシールを開けたコルクからもご覧いただけます。

Auxerrois 1er Passage / オーセロワ プルミエ パッサージュ

ヴィンテージ:2018
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:オーセロワ 100%

オーセロワと言えば、白い花のようなチャーミングさやヨーグルトのようなまろやかな酸味が特徴として感じやすいブドウですが、このプルミエ パッサージュはふくよかなボリュームと力強さがあり、香ばしさ、強烈なミネラル感、わずかな発泡感、若干の揮発酸があいまった骨太かつ奔放な味わいとなっています。

基本的に輸出やフランス国内への卸売はあまり行わず、セラーを訪れた一般顧客への直接販売のみというドメーヌ プティ プセ。そのため、ある程度の生産量のキュヴェに関しては、ワインの瓶詰めを一度に行うのではなく、ステンレス製のタンクなどに貯蔵・熟成させておき、定期的に瓶詰めを行います。

このオーセロワ プルミエ パッサージュも、必要な時に必要な分を瓶詰めされてきたワインですが、そのためタンク内での熟成中に酸素に触れる機会が増え、酸化的な環境で熟成されたワインのニュアンスが僅かに感じられます。

一方で、高いポテンシャルの区画に由来するであろう硬質で強烈なミネラル感が、このワイン全体をビシッと引き締めており、抜栓直後よりも時間の経過につれてクリーンで涼やかな味わいへと変化していきます。この傾向は、翌日、翌々日と持ち越しても続いていき、抜栓1週間後であっても不安定などころか、より集中力の増した味わいとなります。

このワインは、ビオロジックで栽培されたブドウを手摘みで収穫し、自然酵母のみで発酵。厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)も無添加で造られました。

Pinot Gris STZ / ピノ グリ エス テー ゼッドゥ

ヴィンテージ:2018
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ピノ グリ 100%

キュヴェ名のSTZは、アルザス地方マーレンハイムのグラン クリュ(特級畑)の1つであるSteinklotz(シュタインクロッツ)に由来するイニシャルのようなものです。

ごくごく小さな面積しか持たないドメーヌ プティ プセですが、その僅かな面積の中にこの恵まれた区画が含まれており、このワインはシュタインクロッツの畑に植えられたピノ グリから造られます。

このワインが、アペラシオンを名乗らない(名乗れない)理由は、ピノ グリを果皮と果汁を浸漬させるマセレーションを行っているからです。結果として、色調はオレンジがかったピンクとなり、ロゼでもなく、白ワインをマセレーションしたワインとも違った、チャーミングな色調となっています。

味わいはグラン クリュ由来の力強いミネラル感と熟した果実味があり、それでいてチャーミングな酸味とほろ苦さが、絶妙に交錯します。大人っぽいような味わいでいて、同時にキュートな表情を見せる、非常に情報量の多いワインとなっています。

抜栓直後はボリュームもしっかりと感じられ、わずかな発泡感と若干の揮発酸がありますが、時間の経過とともに味わいの各要素がまとまっていき、抜栓1週間後でもなお崩れることなく、その表現力の豊かさを楽しませてくれます。

このワインは、ビオロジックで栽培されたブドウを手摘みで収穫し、自然酵母のみで発酵。厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)も無添加で造られました。