Les Bois Perdus – Chap.04
ほら見て!セラーがパンパンだよ
Alexis Robin / アレクシ ロバン
年に応じて、気候に応じて、繊細に作品をディレクションしていく二人
「迷いの森」と訳されるレ ボワ ペルデュは、レナ ペルデュとアレクシ ロバンの2人によって運営されるドメーヌです。2人の繊細な感性が絶妙に折り重なり、他にあまり類を見ないような絶妙のバランスと素晴らしい質感のワインを届けてくれています。
ドメーヌといっても、まだ自分たちの植樹したブドウはワインを造れるような実をつけるには至っておらず、今回ご紹介する2021年ヴィンテージに関しても、これまで同様に地域の栽培農家などから購入したブドウで醸造されたものになります。
もともと映画関係の仕事についていた二人ですが、自然派ワインのホットスポットと呼べるアルデッシュの地に移り、小さな村のさらに秘境のような奥地にある家と山林を手にして新しい生活をはじめて3年ほどが経過しました。
ひと目惚れと、いやワインなのでひと飲み惚れと言うべきでしょうか、衝撃的なファーストヴィンテージの出会いからずっと彼女たちのワインを飲み続けていますが、買いブドウのハンデをまったく感じさせない素晴らしいワインを毎年造ってくれています。
そして3年目の2021年も胸がキュンキュンするような素晴らしい仕上がりです。この年からは、ラインナップにはじめて白ワインも加わり、着実に進化しています。
2021年は、全国的に被害が発生した春の霜の被害や湿度の高さ、気温の低さなどによってフランス各地で大幅に収穫量を減らす難しいヴィンテージでしたが、そのハンデも全く感じさせない秀逸なバランスです。
もちろん、例年に比べるとアルコール度数や凝縮度は控えめな仕上がりになっていますが、そもそも南フランスの入り口とも言えるアルデッシュのワインは、平均的な年であってもボリュームが強くなる傾向のある産地です。
2021年の控えめなアルコール度数は、決してマイナスになっておらず、むしろワインにしなやかさと軽妙な飲み心地を与えてくれていて、まるで羽が生えたような柔らかいタッチの口当たりで、スムーズな飲み心地になっています。
今回リリースのワインたちは2022年9月ごろには日本に到着しておりましたが、船旅の疲れを癒やすべく、じっくりと4ヶ月ほど休ませてからのリリースで、どのキュヴェもすごく良い表情を見せてくれています。
ほら見て!セラーがパンパンだよ
実は、この2021年のワインたちにはちょっとした思い出があります。ちょうど昨年の6月ごろですが、レ ボワ ペルデュのもとを訪問しました。すると、ちょうど良いタイミングに来たね!という感じで出迎えてくれたのですが、それは私の訪問の2週間ほど前に今回リリースする2021年のワインたちをボトリングしたよということでした。
ボトリングは、ワインの最終的な味わいに大きな影響を与える重要な仕事です。それを無事終えて、まさに完成したワインを試飲する良い機会だねということでした。
もちろんボトリングの直後は、ワインにストレスがかかっていてまだ味わいも安定していないことも多いのですが、それでもワインの素養を感じるには良いタイミングです。
早速と全てのキュヴェを試飲して、先に述べたように例年よりもしなやかな味わいながらも抜群のバランスで、どのワインも日本に届くのが楽しみだなーとのんきに喜んでいました。
すると…
「ジュンちょっとこっちに来て」
とワインのストック用のセラーに誘導される私。扉を開けると、目に飛び込んできたのは、ワインがうず高く積み上げられたパレットで満杯の部屋でした。
「ちょうどぴったりセラーに収まったんだ」
と話すアレクシ。ぴったりもぴったりで、セラーの中を移動するにも段ボール箱の間をなんとかすり抜けて移動しなくてはならないほどのパンパン具合です。
これだけ部屋がパンパンだと出荷などの作業するにも効率が悪いですし、なんとか早く減らしたいというのが当然です。
そこに飛んで火に入る何とやらでやってきたのが私でした。
基本的に継続的・永続的なお付き合いを前提としているので、こうして訪問して試飲してから注文数を決めるといったことはしておらず、事前に相当数のワインをノールックならぬノーテイストで予約しております。
この相当数の予約というのが重要で、私がボトリングされたワインを早々に引き取ると一気にスペースが空くのです。
いつもであればボトリングした後に連絡がきて、 そこから他の造り手たちのワインの準備の都合などとタイミングを合わせて出荷をしてもらいます。この時の心づもりとしては、次の出荷は秋頃かな?なんて悠長にかまえていたので、突然の引き取りプレッシャーにオタオタしてしまいました。
とはいえ、この現状を見てしまったからにはしょうがないよね…と、帰国後に早速集荷の手配を始め、ちょうどタイミングよく他の造り手たちからもワインが出てきたので、なんとか速やかにワインを引き取ることができました。
色々とあわててはいましたが、こうしたお互い様のような関係性を持てたりコミュニケーションができるのは、本当に充実感が得られる瞬間です。結果的にタイミングよく訪問できて良かったなと思いました。
さてそんな思い出深い2021年のワインたち。ボトリング直後に飲んだ時も頭が抱えるぐらい美味しいなと思いましたが、日本に到着したワインたちも期待通りの味わいです。もちろんまだまだスタートラインに立ったところなので、ワインとしては今後もどんどんと魅力を増していってくれると期待しています。
Libelulle / リベリュル
ヴィンテージ:2021
タイプ:白
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:ユニブラン 40%、ルーサンヌ 30%、マルサンヌ 30%
キュヴェ名のリベリュルはフランス語で「トンボ」の意味。ユニ ブラン 40%、ルーサンヌ 30%、マルサンヌ 30%のアッサンブラージュ(ブレンド)で造られています。
初ヴィンテージとなる2021年は、表示アルコール度数が11.6%とかなりライトな仕上がりになっており、草原を吹き抜ける風のような爽快感があり、美しさを感じる酸味とレモングラスのような爽やかな風味のあるバランスに秀でた白ワインです。
ユニ ブラン自体は、多収量で個性に乏しい品種と言われていますが、しっかりと成熟させたブドウから造られるワインの奥行きのある味わいは、多くの他の造り手たちが手掛けるユニ ブランのワインで証明されています(ちょっと同じ地域のあの人のワインに通じるものがあります)。加えて、香り高く華やかさもあるルーサンヌやマルサンヌが加わることで、ワインに広がりと生き生きとした旨味が感じられるようになっています。
ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、ユニ ブランとルーサンヌは一緒にあわせて直接圧搾され、同様に仕込まれたマルサンヌと最後にアッサンブラージュ(ブレンド)されています。自然酵母のみでステンレスタンクで発酵させ、そのまま熟成し、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。
Illuminée / イリュミネ
ヴィンテージ:2021
タイプ:白
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:シャルドネ 80%、ソーヴィニヨンブラン 20%
キュヴェ名のイリュミネは、「明るく照らす」という意味で、シャルドネ 80%、ソーヴィニヨン ブラン 20%というアッサンブラージュ(ブレンド)で造られています。
初ヴィンテージとなる2021年は、表示アルコール度数が14.2%とこのヴィンテージにしてはかなりボリュームのある仕上がりになっています。美しいゴールドの色調と香ばしく高貴な香りがあり、味わいも非常にリッチです。それでいて、構成のしっかりとしたミネラル感があり、余韻もしなやかで複雑と、素晴らしい仕上がりです。
最初の口当たりはボリュームを感じますが、緩慢な印象はなくむしろ削げたと感じる味わい。大人っぽさもあり、飲み心地は軽快です。個人的に大好きな同じ地域のあの人のシャルドネのキュヴェに通じる雰囲気があり、むしろもう少し香ばしさを感じます。
ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、シャルドネに関しては、半量を3日間マセレーション(果汁に果皮を浸漬する醸し)を行い、残りは直接圧搾されて仕込まれました。自然酵母のみでステンレスタンクで発酵させ、そのまま熟成し、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。
Elle Tremble / エレ トランブル
ヴィンテージ:2021
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:メルロ 80%、 ガメイ 20%
キュヴェ名のエレ トランブルは「彼女は震えている」という意味。レ ボワ ペルデュの初ヴィンテージからリリースされているこのキュヴェは、初めての年に起こった思い出のエピソードにちなんで名付けられました。
初ヴィンテージとなった2019年、発酵中のこのキュヴェが、冬の気温低下でその発酵を止めてしまった(造り手としては非常に心配な状態な)まさにその時、この地域では珍しい大きな地震が発生しました。ところが、その地震が起こったまさにその時から、止まっていた発酵が再開したのです。この大地の震えによって、ワインが救われたことから「エレ トランブル(彼女は震えている)」と名付けられました。フランス語で「大地」は、la terre(ラ テール)という女性名詞なので、「彼女は震えている」という名前につながるわけです。
2021年はこれまでのメルロー 100%から、メルロー 80%、ガメイ 20%のアッサンブラージュ(ブレンド)に変更されました。これまでは時々の天候の影響もあり、凝縮度の高い仕上がりの年が続きましたが、 2021年は表示アルコール度数が12.8%となっています。
これまでのヴィンテージのイメージとは打って変わり、淡さや華やかさ、繊細な旨味のあるバランスのワインとなっています。香りから感じる果実の風味は相変わらず深みがあり、紫から黒系の果実のよく熟した風味が感じられます。飲み手にそっと寄り添って癒してくれるような優しさとふくよかさがあり、今すでに近づきやすくあり、またこれからの熟成が楽しみな複雑味もあります。
ブドウはすべてビオロジックで栽培されたものを用いていて、メルローは半量を除梗し、もう半量を直接圧搾しあわせてマセレーションマセレーションを10日間行っています。ガメイに関しては半量を除梗し、もう半量を全房のまま3日間マセレーションを行っています。自然酵母のみでステンレスタンクで発酵させ、そのまま熟成し、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。
Malotru / マロトリュ
ヴィンテージ:2021
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:カリニャン 80%、シラー 10%、グルナッシュ 10%
キュヴェ名のマロトゥリュは、「無作法もの」という意味で、カリニャン 80%、シラー 10%、グルナッシュ 10%というアッサンブラージュ(ブレンド)で造られています。
2021年は表示アルコール度数が12.8%で、黒系果実の深い風味ときめ細かやかなタンニン、柔らかく軽妙な果実味がある大人っぽい落ち着いたバランスの赤ワインです。生き生きとした果実味に森のキノコや下草のような風味が加わり、ほんのりとオリエンタルなスパイスのニュアンスもあります。
エチケット(ラベル)には、外套(パーカ)を着た人物の後ろ姿が描かれ、少し影のある意味深な表現を感じます。フランスで人気のテレビドラマに Le Bureau des légendes(レジェンドたちのオフィス)という番組があり、外国に潜伏していた秘密工作員が主人公なのですが、この主人公のコードネームがマロトゥリュ(無作法もの)なのです。
かつて映画関係の仕事をしていた2人が名付けたということで、このドラマからインスピレーションを得たのかなと想像できますが、実はまだ本人たちにはこの関連性を確認していません。しかしこのワインのクールで落ち着いた雰囲気のイメージとは重なります。
隠している秘密があるようなそんな雰囲気です。
ブドウはすべてビオロジックで栽培されたものを用いていて、カリニャンをセミ カーボニック マセレーションと呼ばれる手法で15日間醸しを行い、最後の5日にあわせてシラーとグルナッシュの直接圧搾した果汁を加えます。自然酵母のみでステンレスタンクで発酵させ、そのまま熟成し、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。
Aphrodite / アフロディート
ヴィンテージ:2021
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:シラー 50%、グルナッシュ 50%
キュヴェ名のアフロディート(日語:アフロディーテ)はギリシア神話の女神で、愛と美と性を司る神とされています。
2021年は、前年のグルナッシュ 100%からグルナッシュ 50%、 シラー 50%のアッサンブラージュ(ブレンド)に変更されました。表示アルコール度数も12.5%で、これまでよりも控えめな仕上がりです。
キュヴェ名からもイメージされるとおり、これまでもこのワインは、女性的な優しい果実味が特徴のワインでしたが、2021年のヴィンテージのキャラクターも相まって、前年にもましてしなやかで柔らかい味わいのワインとなっています。とはいっても、このワインから感じる風味の種類は、ブラックベリーやクロスグリといったような黒系果実の風味で、きめ細やかなタンニンもあり、決して脆弱なワインではありません。
しっかりと飲み手を包み込むような果実味がありつつも、余韻や飲み心地がどこまでもしなやかな暖かみのある懐深い味わいです。どこかオリエンタルなスパイスの風味も感じられ、クローブ、コリアンダーシード、柑橘などの香りを感じます。酸もしなやかかつ美しく、全体を引き締めています。
ブドウはすべてビオロジックで栽培されたものを用いていて、除梗したシラーと直接圧搾したグルナッシュの果汁をあわせて15日間マセレーション(果汁に果皮を浸漬する醸し)を行い、自然酵母のみでステンレスタンクで発酵させ、そのまま熟成させます。このワインは、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。