Maison Lissner – Chap.02

メゾン リスナーでの試飲

私は忙しい。しかし、急いではいない。

Bruno Shloegel / ブリュノ シュルーゲル

ブリュノ シュルーゲルはどんな人物か

ワインの世界に身をおいて随分とたち、様々な人と出会いと別れを経験してきました。

一人一人の造り手がそれぞれに魅力的な人物で、彼ら・彼女らと過ごした時間は私にとって宝物のような経験です。

そんな経験のなかでも、特に特別だと感じる人がいます。

メゾン リスナーのブリュノ シュルーゲルは、その一人。

彼との対話で得られる気づきは、ワインやブドウ栽培といったテーマに限定されず、生きる上での大切なヒントを与えてくれます。

そんなブリュノの語る言葉は、かつて私に、同じように気づきを与えてくれたカーゼ コリーニの故ロレンツォ コリーノと重なります。

語りたいこと、書きたいことは沢山あるのですが、今回は新しいワインのリリースあわせて、ブリュノ シュルーゲルはどんな人物かについて、少しご紹介したいと思います。

私は忙しい。しかし、急いではいない。

メゾン リスナー醸造所の中庭にて

現在のメゾン リスナーは、2001年にブリュノ シュルーゲルが、叔父であるクレモン リスナーが所有していたドメーヌを引き継いだことからはじまります。

それ以前は、(ちょっと正確ではありませんが)会計関係の仕事をしていたというブリュノ。当初は醸造所の設備やスペースも限られていたことなど、試行錯誤のなかでのスタートでした。

そこから時間をかけて、理想的な醸造所をあらたに建て、畑の上でのやるべきこと、やるべきでないことを整理し、今のスタイルに到達します。

ドメーヌの仕事は、ブリュノとその息子テオの2人によって担われています。介入が少ないアプローチをとっているとはいえ、人間都合で仕事をすることを良しとせず、適切なタイミングに適切な仕事をするというのは、決して楽な仕事ではありません。

ここ最近の私のアルザスの滞在中には、醸造所や自宅と同じ敷地内にある建物に宿泊をさせてもらっています。

その間は、ブリュノたちの暮らしや仕事ぶりを垣間見ることが多いのですが、いつも忙しそうにあらゆることをこなしています。

ある日、そんな姿を見て、「いつも忙しいね」と声をかけると

「ああ、私は忙しい。ただし、急いではいないんだ。」

と答えてくれました。

実際に、ブリュノはいつだって慌てず騒がず、彼がやるべきことを実行しています。時には、優先すべきでないことを放置し、一方で本当に大切な事は漏らしません。

「忙しくても慌てない」こうした心持ちで生きていけたらどれだけ良いだろうと、素直に思います。

常に考え続ける人

醸造所に着くといきなり講義がはじまった

私がはじめてブリュノのもとを訪ねた時のこと。

最初にまず驚かされたのが、彼らがどんな仕事をしているのかをスライドを見せてもらいながら講義がはじまったことです。

なぜ下草を除草すべきでないか

徒長枝を切らないことはどう作用するか

ビオロジックやビオディナミ栽培を実践している隣人の畑との土壌の各種データの違い

けっして神秘的な自然信仰やその尊重からでなく、彼らのひとつひとつの(何かをやらないことも含めた)選択に意思と理由があることを教えてもらいました。

そして、そこから数日をかけて畑の散策、醸造所での試飲、ボトリングされたワインの試飲などなどと彼らの仕事ぶりや暮らしを体験し、メゾン リスナーのワインが、なぜ圧倒的な存在であるか、その理由をひとつづつ感じていきました。

感性や感覚にだけ頼っているわけでない、徹底的な観察と深い思考、そして洞察で、ワイン造りを行っている姿は、私にとってロレンツォ コリーノのそれと大きく重なるものでした。

ブリュノもロレンツォも常に考え続け、問い続けてきたからこそ、人に伝えることができるほどに体系立てられた方法論を持ち得たのだと思います。

蜘蛛の巣の場所にも意味がある

そんなブリュノの観察眼からすれば、ある時期、ある場所に畑で蜘蛛が巣をはることも、理由と意味が見いだせるのです。

ワインの話をしていない

ニューリリースの案内文だと言うのに、ワインの話をしていません。もちろん、今回も全てのワインを試飲した上でリリースをしています。

それぞれの印象や伝えたいことは後述しておりますが、基本的にどの年、どの品種、どのキュヴェであっても、信頼して頂いて大丈夫です。

全てのキュヴェにそれぞれの意義があり、豊かな表現力があります。願わくば、味わいだけを楽しむのではなく、遠く離れたアルザスの地で、日々問いを絶やさない造り手に思いを馳せていただければ幸いです。

朝夕とロバの世話をする二人

+ 造り手詳細

Crémant d’Alsace Tradition / クレマン ダルザス トラディション

ヴィンテージ:NV
タイプ:泡
産地:フランス アルザス地方
品種:シャルドネ他

前年のワインをベースに翌年の果汁を添加することによって、ブドウ以外の酵母添加も糖分添加も行わないで瓶内二次発酵をした純粋無垢なスパークリングワイン。このワインに関しては、亜硫酸塩(酸化防止剤)の添加も行っておらず、まさに理想的なスパークリングワインとなっています。

まず印象的なのはトーストや栗のような香ばしいフレーバー。加えてクリーンで爽快な果実の風味が感じられ、繊細で気品高いバランスとなっています。泡立ちも品よく繊細で、余韻に感じる白い花のような香りが心を落ち着けてくれます。

ピュアさ、表現力、味わいから感じるブドウの力、どれをとってもトップクラスのスパークリングワインです。

Edelzwicker .G / エデルツヴィッカー ポワン ジェ

ヴィンテージ:2021
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ゲヴェルツトラミネール他

エデルツヴィッカーとは、いくつもの品種のブドウを混醸することが許されたカジュアルなワインとしてアルザス地方で定義されています。リスナーにおけるエデルツヴィッカーは、ウイヤージュ(補酒)用に別にとっておいたワインや、瓶詰め後のタンクや樽の底に残った澱(おり)の部分などを集めて造られるワインです。

2021年は、春の霜害、夏の降雨によってフランスのほぼ全てのワイン産地で収穫量を減らした年です。リスナーも例外ではなく、この年は生産されないキュヴェもありました。そんな2021年ですが、ここ数年に多い暑い年の強さではなく、ピュアなみずみずしさを楽しむことができる年になっています。

口当たりも優しく、アルコール感も控えめながら、清さと爽快さのある果実味と繊細な酸、余韻にしっかりと感じるミネラルなど、けっしてスケールの小さいワインではなく、複雑さをしっかりと秘めています。旨味もあり飲み心地も良い、まさに日々の食卓に欠かしたくない絶妙な味わいです。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に少量の亜硫酸塩(酸化防止剤)を添加して造られます。

Pinot Gris / ピノ グリ

ヴィンテージ:2019
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ピノ グリ 100%

品種名のピノ グリのグリとはグレー(灰色)のことで、黒ブドウでも白ブドウでもない色素と風味を持ったブドウ品種です。

2019年は、猛暑と少ない降雨に見舞われた年。アルコール度数は高くなり、苦味やスパイシーさが強調されるというのが一般的ですが、メゾン リスナーのブドウの植生と生態系との関わりを尊重した農法は、こうした暑い年であってもそのハンデを感じさせないワインを生み出しています。

もちろんこのワインに関しても、アルコール度数は14%超えと高く、香ばしさは感じられますが、と同時にそのアルコール度数の高さを感じさせない飲み心地の良さがあり、凝縮したミネラル感が全体の味わいを引き締めてくれます。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に少量の亜硫酸塩(酸化防止剤)を添加して造られます。

Pinot Gris / ピノ グリ

ヴィンテージ:2020
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ピノ グリ 100%

品種名のピノ グリのグリとはグレー(灰色)のことで、黒ブドウでも白ブドウでもない色素と風味を持ったブドウ品種です。

2020年もここ数年の典型的な天候となった暑く雨の降らない夏に見舞われた年。アルコール度数は高くなり、一般的には苦味やスパイシーさが強調される年となっています。しかしながら、メゾン リスナーのブドウの植生と生態系との関わりを尊重した農法は、こうした暑い年であってもそのハンデを感じさせないワインを生み出しています。

このワインに関してまず驚かされるのは、14.5%という表示アルコール度数。しかしながら、重さは感じさせず、さらっと飲める軽さがあります。野草の爽快な風味と凝縮した果実味のコントラストが印象的で、それでいて奥行きのある旨味と複雑味があります。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)の添加を行いません。

Pinot Gris M / ピノ グリ エム

ヴィンテージ:2021
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ピノ グリ 100%

”M”はマセレーションの頭文字で、収穫量が少なかった2021年にピノ グリ クラシック(品種名のみ記載のキュヴェ)用の区画とピノ グリ ブリュッシュの区画のブドウを合わせて造ったキュヴェです。

色素を持った品種であるピノ グリをマセレーション(果皮と果汁を浸漬)させることで、鮮やかなオレンジがかったロゼの色調を備えています。2021年らしいみずみずしさとマセレーションから生まれる香ばしさのコントラストが印象的で、味わいの構成や骨格もしっかりしており、複雑な味わいが楽しめます。

第一印象は、近づきやすく親しみやすい味わいですが、時間の経過とともに中心に収束していくような集中力が感じられ、その魅力の多くをまだ秘めているという印象を受けます。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に少量の亜硫酸塩(酸化防止剤)を添加して造られます。

Gewurztraminer Muschelkalk / ゲヴェルツトラミネール ムッシェルカルク

ヴィンテージ:2020
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ゲヴェルツトラミネール 100%

ムッシェルカルク(貝殻石灰岩)の名前を冠したゲヴェルツトラミネールから造られるキュヴェ。このワインは、リスナーの数ある畑のなかでも熟度が高く凝縮したブドウが得られるのが特徴の区画から生み出されています。

個人的には、はじめてメゾン リスナーの様々なワインを試飲したときにトップ3に入るほど印象に残ったキュヴェであり、今回の2020年が初めてのご紹介になります(当時試飲したのは2019年)。

ゴールドがかった濃い色調と、マセレーションしているのでは?と思わせるような香ばしさと厚みがあり、ゲヴェルツトラミネールらしいアロマティックな風味もありつつもどこかドライで硬派な印象も受けます。グラン クリュ(特級畑)と比べるとミネラルの厚みに欠けるところはありますが、反面、初期の段階からフルスロットルで風味を爆発させているという魅力もあります。

暑く乾燥した2020年の特徴もありますが、相変わらずの傑作。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)の添加を行いません。

Riesling Wolxheim / リースリング ヴォルクスハイム

ヴィンテージ:2020
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:リースリング 100%

メゾン リスナーが居を構える村、ヴォルクスハイムの名前を冠したリースリング。リスナーでは、クラシック(品種名のみ)、村名(ヴォルクハイム)、グラン クリュ(特級畑)と3種類のリースリングを造っています。

暑く乾燥した2020年ながら、芯の1本通ったミネラル感と重層的な複雑味があり、相変わらずのスケールの大きなワインとなっています。大きめのグラスでじっくりと時間をかけながら、このワインが奏でる音を心落ち着けて聴いてもらいたい、そんな特別な1本です。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)の添加を行いません。

Muscat Altenberg de Wolxheim / ミュスカ アルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイム

ヴィンテージ:2020
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ミュスカ 100%

ヴォルクルスハイム村のグラン クリュ(特級畑)であるアルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイムに植わるミュスカから造られるワイン。ミュスカはアルザスの伝統品種のひとつですが、リースリングやゲヴェルツトラミネールなどよりも格下に見られることも多く、このアルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイムの区画でもミュスカは非常に稀なブドウ品種となっています。

しかし、ブリュノ シュルーゲル氏曰く、ヴォルクスハイム、なかでもアルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイムは歴史的にみてもミュスカに最適の畑とされており、テロワールの真髄を精微に写し取ることができている品種であるといい、この区画を非常に大切にしています。

暑く乾燥した2020年ですが、メゾン リスナーのブドウの植生と生態系との関わりを尊重した農法とグラン クリュ(特級畑)のテロワールが重なり、天候に左右されない地に足付いた安定感があります。

香りには花の蕾(つぼみ)や甘やかなメロンの風味があり、そこに実山椒のニュアンスがアクセントに加わります。アロマティックすぎない絶妙なバランスで、とにかく美しいの一言。現時点では、あくまでその偉大さを鑑賞するにとどまりますが、熟成を経たこのワインの将来の姿が楽しみでなりません。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に少量の亜硫酸塩(酸化防止剤)を添加して造られます。

Gewurztraminer Altenberg de Wolxheim / ゲヴェルツトラミネール アルテンベルク ドゥ ヴォル

ヴィンテージ:2019
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ゲヴェルツトラミネール 100%

ヴォルクルスハイム村のグラン クリュ(特級畑)であるアルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイムに植わるゲヴェルツトラミネールから造られるワイン。

アロマティックでほんのりスパイシーなゲヴェルツトラミネールですが、グラン クリュ(特級畑)で育ったこのワインは、大地から吸い上げた膨大なミネラルがワインにシャープさを与えていて、その奥に多くのメッセージを秘めています。

暑く乾燥した2019年ですが、その雰囲気は感じさせず硬質なミネラル感とクリーンでみずみずしい果実味、白い花の蜜の香りがあり、口当たりはドライでシャープ。ある意味においてゲヴェルツトラミネール ムッシェルカルクと対象的な対となるキャラクタです。

まだまだその全容を見せていない高いポテンシャルのワインで、ストックしてじっくりと向き合うべきワイン。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)の添加を行いません。

Riesling Altenberg de Wolxheim / リースリング アルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイム

ヴィンテージ:2018
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:リースリング 100%

ヴォルクルスハイム村のグラン クリュ(特級畑)であるアルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイムに植わるリースリングから造られるワイン。

土壌、環境、ブドウ、畑に生きる様々な生物の調和で生まれる傑作。畑は、指揮者のいないオーケストラ。そしてこのリースリング グラン クリュ(特級畑)は、ピアノ協奏曲。とにかく雄弁なこのワインにまずは耳を傾けてほしいと思います。

2018年は暑く降雨の少ない年ではありましたが、ブドウの休眠期から生育期、成熟期それぞれに相性の良い天候に恵まれたヴィンテージです。

近年の極端な天候であっても植物本来の力と生態系のサポートで「適合」させるシステムを採用しているメゾン リスナーですから、こうした理想的なヴィンテージの恩恵は受けつつも、飲み手としての印象に大きなブレを与えません。

加えてグラン クリュ(特級畑)はヴィンテージの影響を超えた普遍性を感じさせてくれるので、この点もブレを感じさせない理由となっています。

味わいに関しては、どんなに言葉を重ねても表現しきれないほど様々なメッセージが含まれています。ゆっくりと時間をかけてボトルに込められた声に耳を傾けていただきたいワインです。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)の添加を行いません。

Riesling Altenberg de Wolxheim / リースリング アルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイム

ヴィンテージ:2019
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:リースリング 100%

ヴォルクルスハイム村のグラン クリュ(特級畑)であるアルテンベルク ドゥ ヴォルクスハイムに植わるリースリングから造られるワイン。

土壌、環境、ブドウ、畑に生きる様々な生物の調和で生まれる傑作。畑は、指揮者のいないオーケストラ。そしてこのリースリング グラン クリュ(特級畑)は、ピアノ協奏曲。とにかく雄弁なこのワインにまずは耳を傾けてほしいと思います。

暑く乾燥した2019年ですが、メゾン リスナーのブドウの植生と生態系との関わりを尊重した農法とグラン クリュ(特級畑)のテロワールが重なり、天候に左右されない地に足付いた安定感があります。と言いつつも、もちろんそのヴィンテージならではの個性は備わっていて、厚みのある果実味とスケールの大きさを感じさせる骨格、全体を引き締める硬質なミネラル感があり、現時点でも偉大さを感じさせてくれますが、やはり長期の熟成を経た姿を見たいワインです。

このワインは、自然農法で栽培されたブドウから自然酵母の力のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰め時に少量の亜硫酸塩(酸化防止剤)を添加して造られます。