Richard et Laurent Kien – Chap.01

リシャール エ ローラン キエン

僕たちのワインは輸出はしないんだ。

Joan Kien / ジョアン キエン

実らぬ出会い

RLKとの出会いは、同じアルデッシュの造り手であるレ ボワ ペルデュを訪問していた時のこと。

「ジュンは、新しい造り手を探しているの?」

と聞かれ、「そうだね。よい出会いがあれば。」

と答えたところ、その年にアルデッシュでワイン造りを新たに始めた2人の造り手の連絡先を教えてもらいました。

その内の1人とは、残念ながら都合が合わずに訪問は叶わなかったのですが、もう1人、わたしが連絡した翌日に訪問を歓迎してくれたのがRLKのジョアン キエンでした。

RLKのメンバーは4人ですが、ワイン造りを切り盛りするのが、このジョアンです。

ジョアン、カーヴにて

素晴らしいワインの造り手の紹介だからといって、良いワインの造り手であるとは限らないのですが、どんな結果になろうとも、こうしたご縁は大切にしていきたいと思っていたので、突然の申し出にも関わらず訪問を受け入れてくれてとても嬉しかった思い出があります。

ただ、訪問に先立って伝えられたことがありました。

それは、「私たちのワインは輸出をしないんだ。」ということ。

環境への負荷を減らし、よりよい未来を作るプロジェクトであるため、エネルギーを多量に使って遠くへ運ぶことはしたくない…というのが理由でした。

「試飲をしてもらえるのは光栄だから、来てくれるのは大歓迎だけれど、ワインを売ることはできないんだ。もしそれでも良かったら。」

そんなメッセージへの私の返信は…

「それでも、ぜひ訪問させて。エネルギーを沢山使ってワインを運びたくないという気持ちはよく分かるし、共感できるよ。だからワインを売ってくれなくても大丈夫。ただ、どんな人が、どんな想いで、この土地で自然派ワイン造りに取り組んでいるのか、それを知りたいんだ。」

ということで訪問がかなったのが数年前の出来事でした。

良い出会いでしたが、仕事にはつながらない。それでも私は大満足でした。

はじめての訪問

RLKのワイン造り

かつては建築を学んでいたというジョアン キエン。そんな彼が、RLKでのワイン造りを担当するにあたり、研修に赴いたのが、この地域の頼れるメンターであるジェローム ジュレでした。

ジェローム ジュレといえば、言わずとしれたアルデッシュを代表する造り手で、緻密で細やかな仕事、膨大な畑仕事やセラーでの仕事を難なくこなす驚くべきモチベーションとパワーの鉄人のような存在です。

ジェローム ジュレでの研修を経て、サン=タンデオル=ド=ベルグ村に拠点を確保し、2021年に買いブドウによるワイン造りがスタートしました。

RLKは現在のところ買い入れたブドウのみでワイン造りを行っています。これは、大きな資本を持たない新興の造り手にとって、新たにワイン造りに挑戦するための王道であり、また多くの仲間や先達たちのおかげで、アルデッシュでは良いブドウを手に入れることができます。

地元の信頼できるブドウ栽培者や仲間の造り手たちから、様々な品種のブドウを分けてもらい、泡・白・赤と色々なタイプのワインを試行錯誤しながら造りはじめました。

もちろん、アルデッシュでの自然派ワインのスタンダードでもある酸化防止剤(亜硫酸塩)無添加であり、自然酵母による発酵です。

はじめての訪問時にテイスティングしたのは、初ヴィンテージとなる2021年。

多少の野暮ったさはありましたが、まっすぐ素直な味わいで、とても筋の良いワインだなというのが印象でした。

「カーヴ(醸造所)もジェロームのところのように整ってなくて…」

と謙遜するジョアン。

ジェローム ジュレは、個人的にも思い入れの深い造り手ですが、ジェロームのところでワイン造りを学んだ…と聞いて、同水準の仕事を期待するのは、そもそも酷であるとわかっていますし、整然とした醸造所をセルフビルドで建築してしまうジェロームと比較するのも無茶な話です。

そんなジョアンが手掛けるワインは、卓越した非凡なワインという印象ではありませんでしたが、地に足ついた心地よい気持ちにさせてくれるワインでした。

「仕事には関係ないし」とリラックスして試飲ができたこの日は、またいい造り手がアルデッシュに増えたなと1人のファンとして幸せな気持ちで帰路についたのでした。

思いがけず訪れた実りの時

そうこうしているうちに月日がたったある日、ジョアンから1通のメールを受信しました。

「輸出はしないと決めていたんだけれど、少し海外にも販売することにしたんだ。サロン(試飲会)でも沢山問い合わせをもらったんだけれど、購入できないと知っても尚、訪問してくれた君に、まずは声をかけなければと思ったんだ。」

こんな嬉しいメールはないな、と思わずにんまりしてしまいました。

と同時に、一緒に働くということは、一緒に未来を築いていくこと。一時的なものでなく、長く続く関係性でなければいけませんいけません。

であるならば、あらためて訪問し、長くお付き合いを続けていける造り手なのかを判断しなくてはいけません。

その旨をジョアンに伝え、すかさず2度目の訪問となりました。

前回以上にシリアスにワインを試飲し、RLKの未来を感じ取ります。ワインだけからでなく、ジョアンとの対話のなかからも、まだ見ぬ未来のワインを想像します。

そして、これは日本の皆さんにお届けすべきと確信し、リシャール エ ローラン キエンは、be a good friend の仲間に加わりました。

旅をへた予想外の味わい

ワイン選びにおいては、もともとローカルを優先させたいという彼らの意向を尊重し、数が少ないキュヴェではなく、ある程度ストックに余裕のあるものから選びます。

現地での試飲の段階では、派手さもなく、少し還元しているものもあったりと素直で素朴な印象のワインたちでした。ただ、ワインを飲み干した後に残る感覚にちゃんと光るものがありました。

この直感的に感じる心地よさこそが、私がワイン選びで大切にしているポイントであったりします。

この感覚こそがすなわち、その造り手の署名たる個性であり、この個性こそが、飲み手に喜びと幸せを与えてくれる源なんだと思っているのです。

そんなRLKのワインたちが、長旅と煩雑な輸入事務仕事を経て、ついに日本に到着しました。

期待を胸に早速試飲してみたところ…

自分自身の至らなさ、浅はかさを思い知らされました。

そう、私が想像していた以上に素晴らしいワインだったんです。

全体の雰囲気は、現地で試飲したときの印象と変わらないのはもちろんですが、その表現力というかきめ細やかさ、情報量の多さみたいなものが、イメージしていたもの以上だったのです。

すべてのキュヴェに共通する柔らかいタッチの果実味と飲み手を包み込むような優しい香り。それでいて、余韻には繊細でしなやかな表現力があります。

この繊細な表現力というのが、他の造り手のワインではそう簡単には感じられないのです。そして、これはジョアンの人柄がなせる表現なんだろうなと素直に思いました。

また、どのワインも3日たっても不安定にならないというのも驚きでした。親しみやすいようでいて、芯がしっかりとしていてシリアス。ふわふわしたところがなく、地に足ついた味わいです。

勢いとエネルギーでぐいぐい押し切る!みたいなワインが多い中で、こうしたワインを生み出せるセンスが素晴らしいなと思います。

ジョアン キエン

Merci Quand Même / メルシー コン メム

ヴィンテージ:NV (2022)
タイプ:白
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:モーザック 100%

キュヴェ名を訳すと「それでもありがとう」という意味で、期待してたことが上手くいかなかったとしても、助けてくれたり、試みてくれたりした人に感謝を示す言葉です。

南西地方で栽培されることの多い、モーザックを用いた白ワインで、トロピカルでバニラのような甘い香りとハーブの清涼感が共存する果実味豊かな暖かみを感じるワインです。味わいには、香りから想像される甘さはなく、ふくよかさはありますが、しっかりドライな飲み口。果実味が丸く、同時に美しい酸もあり、どこかキウイを思わせるニュアンスもあります。また余韻に広がる草原をイメージさせるハーブの風味も爽快です。

イカやタコと甘夏やレモンなどの柑橘をたっぷり用いたサラダ、ごまやピーナッツなどの風味豊かな棒々鶏などと相性が良さそうです。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

抜栓後数日たってもバランスを崩すことなく、長く安定した味わいを楽しませてくれます。

Chillay / シレー

ヴィンテージ:NV (2022)
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:ガメイ 100%

キュヴェ名の由来は不明ながら、エチケット(ラベル)に描かれた海辺のビーチの夕日から”chill”や”chiller”といったチル(くつろぐ・リラックス)するという単語をイメージさせます。

このワインは、ガメイ100%で造られる赤ワインで、赤い果実のフレッシュな風味とほんのり感じるチョコレートやカカオの香ばしいニュアンスがある果実味たっぷりの飲み心地の良いワインです。いきいきとした果実味のワインですが、一方で余韻には大人っぽさを感じる複雑さや深みもあり、落ち着いた雰囲気の繊細なワインでもあります。

飲み進めているうちにじわりじわりと滋味深い味わいが広がり、染み込むような旨味があります。

ピーマンの肉詰めや鶏のトマト煮など、野菜のほろ苦さや酸味をいかした肉料理やカレーなどスパイスを効かせた料理との相性が良さそうなワインです。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

抜栓後数日たってもバランスを崩すことなく、長く安定した味わいを楽しませてくれます。

Mais Tu N’y Connais Rien / メ チュ ニ コネ リアン

ヴィンテージ:NV (2021)
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:カリニャン 100%

キュヴェ名を訳すと「でも、あなたそれについて何も知らないよね。」という意味。キュヴェ名の由来はわかりませんが、エチケット(ラベル)には自信満々で何かを語る男性の絵が描かれています。

このワインは、カリニャン100%で造られる赤ワインで、チョコレートやカカオを思わせるような気品ある香りがあり、赤系果実の明るくも深く熟した果実の風味に満ちた厚みのある味わいです。香り、飲み心地ともにしなやかで、濃厚な味わいであるにもかかわらず、緻密で繊細なバランスがあり、じっくりと飲み進めて楽しめる複雑味があります。

豚の加工肉や鴨肉を使うような伝統的なスタイルのフランス料理と相性が良さそうで、日本であれば、煮豚や焼き豚などを薄くスライスして、サラダ仕立てにしたものも美味しそうです。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

抜栓後数日たってもバランスを崩すことなく、長く安定した味わいを楽しませてくれます。