Les Vignes du VinGabond – Chap.01

畑に行きたいって?いいね!じゃあ畑でワインの試飲をしよう!

Florian Spannagel / フロリアン シュパンナーゲル

アルザスという原点、そしてまた巡り会う

若い頃の私にとって、アルザスと言えば、シュレールであり、ジュリアン メイエーだった。

特にシュレールに関しては、私が自然派ワインと共に人生を歩むようになるきっかけとなったワインの一本であり、私の人生に大きな影響を与えてくれた造り手だったと言える。

だからこそ、インポーターとして長く勤めていた間も、シュレールやメイエーのような心を震わせるワインでなければ、自分自身、心からお勧めすることはできないと思い、アルザスのワインを取り扱うことはなかった。

今振り返っても懐かしい。
ヴィンテージでいうと2000年前後のこと。

しかし、その後、それぞれの造り手は、味わいのバランスを取るのに長らく苦労するようになる。

私にとっては変わらず憧れであり、原点であったため、その愛情が途切れることはなかったが、「心を震わせる」という感覚を他の人と共有できる機会は少なくなってしまったのも事実。

そこから時は流れ、思いもしなかった縁で再びアルザスに訪れることになる。

自分自身がインポーターとして独立し、ワインを私に預けてくれる造り手を探していたとき、古くからの友人である造り手が紹介してくれたのが、ドメーヌ フィッシュバックのジャンだった。

この出会い以来、be a good friendは、思いのほか多くのつながりをアルザスに持つインポーターとなる。

歳を追うごとに成長が目覚ましいドメーヌ フィッシュバック
いつもハッとさせられる熱量が込められたドメーヌ プティ プセ
人生で二度目のワインの再発見をさせてくれた、今、この時代のアルザスを代表する造り手、メゾン リスナー

そして、また出会ってしまった。

今、この時代を、そして次の時代を間違いなく代表するようになる造り手。

今日はそんなあらたな出会いのお話。

旅するワインのブドウたち

ある日、見知らぬ人から突然メッセージを受信した。

アルザスに住む日本人の方で、先日ドメーヌ フィッシュバックのジャンを訪問したという。どうやらジャンが「日本には良いパートナーがいて…」と話してくれたらしく、興味を持ってくれたようだ。以来、頻度はそう多くはないものの、折にふれて連絡をやり取りするようになった。

そんな彼女が、ある時こんなメッセージをくれた。

「すごく素晴らしいワインを造る人がいるんです。一緒に会いに行きませんか?」

残念ながら、素晴らしい造り手はそう多くはいないもの。

でも、偶然と幸運の連続でこれまで生かされてきた私にとって、この誘いを断る理由もない。どんな結果となれ、新しい出会いは貴重な機会だ。

そうして向かった先は、アルザス地方の小さな村、アメルシュヴィーア。コルマールから少し北西に位置する場所だ。降ったり止んだりの小雨が続く曇り空で、空気はふわりと肌寒かった。でも待ち合わせた醸造所に到着したとき、偶然にも雨がやみはじめた。

しばらくして現れたのは、一見して誠実そうな青年だった。

彼の名前は、フロリアン シュパンナーゲル
彼のドメーヌの名前は、Les Vignes du VinGabond(レ ヴィーニュ デュ ヴァンガボン)

フランス語で「放浪者」を意味するvagabondに、ワインを意味する「vin」をかけ合わせた「旅するワインのブドウたち」と言った意味だろうか。

立ち話もそこそこに「試飲をする?」とお決まりのパターンになったので、「せっかく雨もやんだので、畑に行きたい」と伝えると、ぱっと顔を明るくして「じゃあ畑で試飲をしよう!」となった。

彼が最初に連れて行ってくれたのは、Chez Jean-Paul(シェ ジャン=ポール) という名前のワインが生まれる畑だった。丘の中腹に位置し、また別の丘との谷間にそって広がる畑。ここは彼がワイン造りを始めるきっかけとなった、とても大切な場所だという。

勢いよくコルクが抜かれ、少し緊張しつつはじめての試飲。
私はこの時感じた感覚を、今でもはっきりと思い出せる。

そのワインを口に含んだ瞬間、思わず天を仰ぎ、続いて笑みがこぼれ落ちる。

「こんなレベルのワインに出会えることなんて滅多にない。それは、大げさではなく、頭を抱えてしまうほどの美味しさ。」

声には出さなかったけれど、内心「こんなことって本当にある!?」と自問自答してしまった。そんな動揺を隠しも隠そうともせず、口から出るのはただただ「素晴らしい」の一言。

「時代は変わったな」と知った瞬間だった。

テロワールを超えるのは、愛だけだ

ワインが生まれた畑で、それぞれのフロリアンのワインを味わってみてわかったこと。それは、彼が手がけるワインはすべて素晴らしいということ。ただ、一つ疑問が浮かぶ。なぜそんな素晴らしいワインが生まれるのか?

畑を巡りながら、彼自身の話を少しずつ聞いていくうちに、その答えがぼんやりと見えた。それは祖父ジョセフとの思い出。フロリアンがワイン造りを始めるきっかけとなったのは、その特別な祖父の存在だった。

祖父のジョセフは、1970年代に植えられた古いブドウ木が育つ美しい畑を、親友のジャン=ポールから譲り受けた。その畑は、天気の良い日にははるか遠くにアルプス山脈が望めるという。

幼い頃、フロリアンはその畑で働く祖父の姿をよく見ていた。土に手を触れ、ブドウ木をいたわる姿を。この思い出は彼にとって特別だったという。

時が過ぎ、「祖父と同じ畑で自分もワインを造ってみたい。」彼がそう思うようになったのは自然なことだった。

この祖父への愛というのは、素晴らしいワインを造るための最高のエネルギー源なんだと思う。ブルゴーニュのヤン ドゥリューも祖父への愛から素晴らしいワインを生み出しているし、ドメーヌ プティ プセのジェラールもそう。

愛こそは、テロワールを超える唯一の存在なのだ。

フロリアンにとって、ワイン造りは「生きるための仕事」ではなく、「心から好きなこと、やりたくて仕方ないこと」だ。その違いは、彼が日々どれほど手間を惜しまないかという姿勢から容易に感じ取れる。

彼のワインを手に取ってまず気づくのは、その蝋封だ。ごく薄く、丁寧に施された蝋封は、べったりと口やボトル全体を覆うようなものではない。無駄を感じさせず、ミニマムで美しい。彼の性格がそのまま表れているとさえ言える。

彼の仕事ぶりは一事が万事このような具合だ。

畑での防除の際、彼はトラクターを使わず、自分で重いタンクを背負い、畑を一歩一歩歩いていく。「自然と直接向き合い、畑を歩くのが好きだから」という理由だ。

連絡の仕方一つとっても、フロリアンは驚くほど丁寧だ。メールも早く、言葉にはさりげない気配りが添えられる。文面からは、彼の几帳面で、けれど人を圧倒しない優しさが見える。

シンプルで美しいデザインのエチケット(ラベル)も彼らしい。そのエチケットには、一本一本に込められた思いが綴られている。

破格の才能を持ったワインの造り手には、いわゆる「アーティスト肌」の破天荒なタイプと、静かに情熱を燃やす「職人」タイプの二種類がいると思う。フロリアンは確実に後者だ。そしてその静かな情熱は、彼が造ったワイン一杯の中に、見事に反映されている。

結果として、彼のワインは、フロリアン自身そのもの。語弊を恐れずに言うなら、飲む人がワインを通じて彼という人間と対話しているような感覚にさせてくれる。

Clin d’oeil / クラン ドゥイユ

ヴィンテージ:2022
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ミュスカ、ピノ オーセロワ、リースリング、ピノ グリ、ゲヴェルツトラミネール

「目配せ」と名付けられたこのワインには、このワインに携わったと思われる人々の名前が、まるで本のあとがきに描かれる謝辞のように、または映画のエンドロールのようにエチケット(ラベル)に刻まれ、バックラベルには続いて、「植え、耕し、収穫し、汗を流し、乾杯し、笑い… みんな一緒に時間を割いてくれてありがとう!」と感謝の言葉が続いています。

グラスに注ぐと、瓶内で緩やかに発酵が続いていたと思わせる微量の炭酸ガスがありますが、味わいのバランスを大きく損ねるものではなく、しっかりとドライなワインに仕上がっていて、安定感を感じます。

香ばしさと旨味があり、と同時にチャーミングで美しさを感じるバランス。どこか蜜っぽいような雰囲気や柑橘のニュアンスもありますが、穏やかで、とにかく落ち着いた雰囲気のあるワインです。ヨガや瞑想の後の研ぎ澄まされた心のような状態を思わせるような、澄み切った奥深さがあります。 余韻も長く、その味わいの表現は気高く、何層にも重なり合いながら時間の経過とともにあらゆる表情を見せてくれます。

総生産量わずか1,296本のみ。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、澱(おり)と接触させたまま10ヵ月ほど樽で熟成させ、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰め時に少量の亜硫酸塩(酸化防止剤)を添加して造られました。

抜栓後数日たってもバランスを崩すことなく、長く安定した味わいを楽しませてくれます。

Chez Jean-Paul / シェ ジャン ポール

ヴィンテージ:2022
タイプ:白
産地:フランス アルザス地方
品種:ピノ ブラン、ピノ オーセロワ、ピノ グリ

「ジャン=ポールのところ」と名付けられたこのワインは、造り手のフロリアンにとって特に思い入れの深い畑です。このワインを生み出す畑は、1960年代から70年代に植樹された4つの区画からなり、フロリアンの祖父であるジョセフが親友のジャン=ポールから譲り受けたことが始まりです。

祖父に対して愛情と尊敬を持つフロリアンにとって、この畑があったからこそワイン造りを始めたと言えるのです。

グラスに注ぐと、瓶内で緩やかに発酵が続いていたと思わせる微量の炭酸ガスがありますが、味わいのバランスを大きく損ねるものではなく、しっかりとドライなワインに仕上がっていて、安定感を感じます。

ややゴールドがかった色調で、ほんのりビターで香ばしさが印象的。それでいて、繊細ながらも中心部に吸い込まれていくような集中力のある果実味があり、ある種の芸術作品のように、鑑賞する側にも教養を求めるようなシリアスさを感じます。自分自身の神経を研ぎ澄ませてこのワインの声に耳を傾けるほどに真価を感じるような、さながら飲み手として試されているような感覚にすらなるワインです。

総生産量わずか992本のみ。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、澱(おり)と接触させたまま13ヵ月ほど樽で熟成させ、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰め時に少量の亜硫酸塩(酸化防止剤)を添加して造られました。

抜栓後数日たってもバランスを崩すことなく、長く安定した味わいを楽しませてくれます。