Le Temps des Cerises – Chap.02

試飲会の名前ね、10月のワインはどうだろう?
Axel Prüfer / アクセル プリュファー
東ドイツからやってきた、愛すべき存在
多くの人に愛されている造り手、ル トン デ スリーズのアクセル プリュファー。
なぜそんなに愛されるのか、そもそも彼がどういう人間なのか。
彼自身と彼のワインを理解する上で大切なのは、おそらく2つのこと。
ひとつは彼の人柄。
とても穏やかで、春の午後の日差しのように柔らかい。でもその奥底には、決して折れることのない強靭な芯のようなものがまっすぐ通っている。
もうひとつは、彼らの歩んできた人生そのもの。
アクセルは、当時まだ共産圏だった東ドイツの生まれ。東西が統合されたあとのドイツにも残っていた徴兵制、彼はそれにどうしても賛成できなかった。いくつかの偶然が重なって(人生というのはだいたいそんなふうにできているらしい)、彼は南フランスにたどり着き、そこで自然派ワインの造り手になった。
それから20年。
正直に言って、文化の違う異国の地で、相当な困難があったはず。
順風満帆な20年なんて、そんなものはこの世のどこにも存在しない。それでも今、彼は同じ地域の、いや、地域に限らず多くの造り手たちから敬愛される存在になっている。

真新しいカーヴを揺らす、小さなガッツポーズ
私がフランスを訪れた際、偶然にもあるミーティングに立ち会う機会があった。
ラングドック地方エロー県における自然派ワインの造り手たちが、10月に企画している試飲会のミーティング。しかもそれは、亜硫酸無添加のワインだけが出展を許されるという、いささかストイックな会。
会場は、トムとミアが営むラブシュルドゥ ジュニ デ フルールの真新しいカーヴ。
このミーティングにたまたま混ぜてもらった私が何より興味を惹かれていたのは、それぞれにはっきりした意見を持ち、しっかり自己主張するフランスの住人たちが、いったいどうやってひとつの結論に辿り着くのか、ということ。
その日の議題は、試飲会の名前をどうするか、チラシをどうするか、といったごく初期の相談だった。

このミーティングを垣間見たときの私の個人的なフィーリングについては、また別の機会にとっておきたいと思う。今は、話が本筋からちょっとそれてしまうので。
とにかく印象的だったのは、後半になって、20人ほどの造り手たち一人一人に「あなたはこの試飲会に参加する意思があるか?」と確認していく場面。
その直前…
この試飲会の名前について意見を求められたアクセルが
「いや、特に意見はないんだけど…」
と、言いつつ、それまでみんなが交わしていた話とはまるで関係のない、斜め上の方角から「10月のワイン」と言い出した。
すると誰かが「それは君がドイツ出身だからでしょ」と返して、みんながちょっと呆れたような、緊張が溶けたような、そんな顔をした。言うまでもなく、ドイツのビールの祭り、オクトーバーフェストにひっかけた話だ。
そしていよいよ、一人ずつ参加の意思を確認していく番が回ってきた。
トムが、
「じゃあ次は、アクセル。ル トン デ スリーズはこの試飲会に参加しますか?」
と尋ねると、
アクセルはただひとこと、
「Oui(はい)」
と答えた。
その瞬間、ミアが小さくガッツポーズをした。
彼女の本当に嬉そうな姿を見て、なんだか胸がキュンとしてしまった。
あとで聞いた話によれば、「この地域におけるアクセルの存在感は途方もなく大きい」とのことだった。単にワイン造りで成功した生産者というだけでなく、いろんな人にとって心から尊敬できる存在なのだ、と。
そう、それがアクセル。
「いや、僕はとくに意見はないんだけどね」なんて言いながらも、仲間たちから愛されてやまない存在。
世界がどれだけ難しくても

さらにあとで知ったのだけれど、この試飲会は、昨今の世界情勢の影響で販売に苦しんでいる仲間たちのためのアクションでもあったらしい。
アクセルや、トムとミア自身はとくに困っていないけれど、「同じ地域の仲間として、何か行動を起こさなくちゃいけない」とみんなで新しい挑戦に向かっている。
「今はみんな、難しい状況を抱えているらしくてね…」とアクセルは言った。
「一体どうすればいいのか、僕にはよく分からないのだけれど」とも。
ここからは、あくまで私の個人的な意見。
この「難しい状況」を作り出している大きな要因の一端は、間違いなく戦争であり、そしてそういった暴力的な争いは、平和を愛するアクセルが心の底から忌み嫌うもの。
美味しいものを食べ、美味しいワインを飲む。そのためには、平和を維持し、自然を守っていくことが何より重要になる。
そのことをもっといろんな人と分かち合いたい、それが私の仕事であり、切実な想いそのものでもある。
偉大なワインというのはアスリートの記録のようなもの
最後に、少しだけ。
私は幸運なことに、これまで多くの偉大な造り手たちと時間を過ごしてきたし、たくさんの偉大なワインを飲んできた。
でも、偉大なワインというのは、ある意味でトップアスリートが叩き出したある種の記録のようなもので、「偉大であり続ける」というのは、そう簡単なことではない。
でも偉大であるとかは、最終的にはどうでもいい。
もっと大事なのは、いろんな人に愛される存在であるかどうか、ということ。
愛されるということは、誰かの信頼を裏切らないということ。
それは「期待」というよりは、もっと根源的な「信頼」。
私はいつだって、アクセルのワインから、彼の優しさと芯の強さを同時に感じ取る。
造り手たちはみんなそれを否定するけど、私にとって最高のワインは、造り手の人柄と生き様を感じるワイン。
「あなたを感じられないなら、それはナチュラルじゃない」
それが、私の意見。
La Peur du Rouge / ラ プール デュ ルージュ

ヴィンテージ:NV(2022)
タイプ:白
産地:フランス ラングドック地方
品種:シャルドネ 100%
「赤の恐怖」と名付けられた白ワインという皮肉の効いた名前のキュヴェ。 早いタイミングで収穫したシャルドネにマセレーション(果皮浸漬)を行い、これより収穫時期を遅らせたシャルドネをダイレクト プレス(直接圧搾)したものと併せて造られた白ワインです。
色調にほんのりオレンジが見られ、香りや味わいにも香ばしさがあり、そのほかに紅茶や桃、キャラメルを思わせる風味を備えています。 コクのある旨みと果実味があり、トロピカルな雰囲気のなかにも爽快感があります。
このワインは、ビオロジックで栽培されたブドウを用い、その果皮等に自生する自然酵母で発酵させ、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。
抜栓翌日になってもバランスを崩すことなく、安定した味わいを楽しませてくれます。
Avanti Popolo / アヴァンティ ポポロ

ヴィンテージ:NV(2022)
タイプ:赤
産地:フランス ラングドック地方
品種:グルナッシュ、メルロー、シラー、カベルネ ソーヴィニョン、アリカンテ
ル トン デ スリーズのもっともベーシックなキュヴェとなるアヴァンティ ポポロ。
2022年の真っ白にホワイトアウトしたエチケット(ラベル)は、ミスプリントではありません。 この年にアクセルがあらたに取得した畑が、正式に有機栽培の認証を取得するまでの転換期間(有機農法に切り替えてから認証までおよそ3年かかる)を表現しています。 今後ヴィンテージを重ねるごとに、彩度があがっていき、最終的にはいつものエチケット(ラベル)に戻していきます。
最初の収穫となる2022年は、質・量ともに恵まれたヴィンテージとなり、生き生きとした果実味とキャラメルのような香ばしさ、スパイス、生き生きとした果実味が印象的なワインとなりました。 2022年は暑いヴィンテージであったため、しっかりとした骨格がありますが、タンニンはなめらかで落ち着いていて、スムーズで美しい酸味と、明るさを感じる果実のコクが楽しめます。
このワインは、ビオロジック(転換期間中)で栽培されたブドウを用いて、その果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。
抜栓翌日になっても、バランスを崩すことなく安定した味わいを楽しませてくれます。
La Capitulation Ne Paie Pas / ラ キャピトゥラション ネ ペイ パ

ヴィンテージ:NV(2022)
タイプ:赤
産地:フランス ラングドック地方
品種:サンソー 100%
思わず舌を噛みそうなキュヴェ名のラ キャピトゥラション ネ ペイ パ。 サンソーを用い、同じ品種で造られるジャラヴァと対になるワインです。 それぞれ同じ区画のサンソーで、こちらはより早いタイミングで収穫し、直接圧搾して造られます。
このワインは例年、淡い色調とコケモモのようなフレッシュでチャーミングな果実味が特徴の滋味深いワインです。 2022年は、控えめなキャンディのような甘やかなアロマと、控えめな熟したプラムのフレーバーが加わり、若干の揮発酸がアクセントとなって爽快なバランスにまとめあげています。
このワインは、ビオロジックで栽培されたブドウを用い、その果皮等に自生する自然酵母で発酵させ、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。
繊細なバランスのワインのため、抜栓当日中にお飲みいただくことをオススメします。
Jalava / ジャラヴァ

ヴィンテージ:NV(2022)
タイプ:赤
産地:フランス ラングドック地方
品種:サンソー 100%
同じくサンソーで造られるラ キャピトゥラション ネ ペイ パと対になるワイン。 それぞれ同じ区画のサンソーで、こちらはより遅いタイミングで収穫したより熟度の高いブドウを用い、軽くマセレーション(醸し)を経て造られるワインです。 レッドカラントやアセロラのような明るく鮮やかな果実味があり、クリーンでなめらかな酸味と、まろやかでスムーズな口当たりが特徴。 生き生きとした味わいで、飲む人を「ホッ」と安心させてくれるような癒し系ワイン。
このワインは、ビオロジックで栽培されたブドウを用い、その果皮等に自生する自然酵母で発酵させ、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。
繊細なバランスのワインのため、抜栓当日中にお飲みいただくことをオススメします。
Un Pas de Côté / アン パ ドゥ コテ

ヴィンテージ:NV(2022)
タイプ:赤
産地:フランス ラングドック地方
品種:グルナッシュ 100%
「一歩、横に」と名付けられたグルナッシュ100%のワイン。 同じくグルナッシュで造られていた、かつてのトップキュヴェであったレ ランドマン キ シャントゥが、2021年を最後にブドウ樹の高齢化と病害のため抜かれ、生産終了となったため、事実上のドメーヌのトップキュヴェとなりました。
比較的標高が高く、樹齢の高いグルナッシュ単体で造られるキュヴェ。 ブルーベリー、プルーン、ブラックチェリーといった黒系果実のしっかりとした風味があり、野バラのような華やかなニュアンスも加わる。 味わいには、柔らかなタンニンとふくよかな果実味があり、引き締まったバランスが特徴。
このワインは、ビオロジックで栽培されたブドウを用い、その果皮等に自生する自然酵母で発酵させ、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。
抜栓翌日になってもバランスを崩すことなく、安定した味わいを楽しませてくれます。