Les Bois Perdus – Chap.02
いつかここに来たらわかるよ。都会の喧騒から遠く離れた山の中、あらゆるものから孤立した静寂な森に迷い込んだような感覚になる場所だよ。
Alexis Robin / アレクシ ロバン
映画関連の仕事に就いていたレナとアレクシスの2人が2019年に立ち上げたのがレ ボア ペルデュ。
南フランスのアルデッシュの地に、彼らの住まいや醸造所、小さなモンゴル式のテントを設置したジット(貸別荘)、ラベンダー、オリーブ、アーモンド、サインフォイン等が息づく22haもの広大な地所を取得して、ヴィニュロン(ブドウ栽培者・ワイン生産者)として生きる道を歩み始めています。
彼らの時にはまだブドウが実っていません。植樹から始めて、これから長い年月をかけてブドウを栽培し、自分たちのワインをつくるプロジェクトです。
そのため、スタート当初は近隣のブドウ栽培農家やワイン生産者からブドウ買い付け自分たちのワインを造っています。
今回ご紹介する2020年のワインたちも、彼らと繋がりのある人々から買い付けたブドウで造ったレ ボワ ペルデュの記念すべき2年目の作品たちです。
彼女たちの初ヴィンテージのワインを、とある試飲会で朝一に飲んで一目惚れしたのが2020年の1月でした。しっかりと個性があり、また表現力も豊かなそのワインが買いブドウから造られていると聞いて、とても驚いた思い出があります。
そして、2年目。
最初のワインが偶然の産物だったのか、それとも彼女たちの想いと仕事のなせる業だったのか。
本来は、彼女たちが生きるその土地に赴いて、人柄や仕事に取り組む姿勢を感じて、取引を始めるのが私のスタイルでしたが、それもかなわず。テキストコミュニケーションのみでのスタートとなりました。
しかしながら、彼女たちの真剣かつ真摯な姿勢は、遠く離れた日本の地でもひしひしと感じられ、初めてのヴィンテージのたった1本のワインから感じた、「オリジナリティ」を引き出すセンスを信頼して、2年目のワインたちもしっかりと確保しました。
その答え合わせが、今回届いた2020年第1段のワインたちなのですが、最終的な評価は皆さんに委ねるとして、個人的には、またまた恋に落ちてしまうような、とてつもなくピュアで、ナチュラルで、チャーミングなワインたちでした。
ブドウ栽培家(将来のために植樹しています)・ワイン醸造家としての仕事に、人生をかけているんだと感じる緻密で繊細で、実直な仕上がりです。もちろんアントナン アゾーニや地域の仲間たちの強力なバックアップが、成功への最短距離を歩んでいる理由だとも思います。
すべてのワインが、亜硫酸(酸化防止剤)完全無添加であることは、アゾーニ ファミリーの当然の規範ですが、そのシンプルながらも難しい挑戦のなかで、しっかりと結果を出しているレ ボワ ペルデュは、この地域に数多いるスターたちに、はやくも仲間入りしたのだと感じます。
あまり造り手やワインの紹介の時に大げさなことを書かないようにしているのですが、それでもワクワクしすぎて書かずにはいられませんでした!
ということで、今回リリースの作品たちの紹介です!
Elle Danse / エレ ダンス
ヴィンテージ:2020
タイプ:ロゼ
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:メルロー 100%
レ ボワ ペルデュの2年目の作品のひとつ、エレ ダンスは「彼女は踊る」というキュートで花やかなイメージのネーミングのワインです。
メルローを使用したロゼですが、軽快なロゼというよりは淡い赤ワインに近いような密度の高い、いきいきとした果実味があります。メルローという品種は、フランス南部のアルデッシュの地で栽培されると、濃厚でボリューム感のあるワインになることが多い印象の品種ですが、抽出を抑えたロゼにすることで、濃密な香りと旨味をもちながらも軽快な飲み心地のワインにすることに成功しています。
小ぶりで繊細な赤い果実のようなフレーバーに満ちていて、淡い果実味とチャーミングな余韻が心地よいワインです。
このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。
Embrasse-Moi / アンブラッセ モワ
ヴィンテージ:2020
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:ガメイ 100%
レ ボワ ペルデュの2年目の作品のひとつ、アンブラッセ モワは「キスして」というちょっとエモーショナルなネーミングのワインです。このエモーショナルな雰囲気が、艶っぽさにいくのか、キュートさを感じさせるのかは、ぜひ皆さんに体験していただきたいです。
さて、2020年のアンブラッセ モワは、そんなエモーショナルな名前にぴったりの表現力豊かな味わいです。まずはフレッシュでチャーミングな風味が感じられ、コケモモやクランベリーを思わせる赤系果実の華やかな香りと柔らかな果実味がバランス良く調和しています。
若々しく、はつらつとした雰囲気がありますが、その奥には艶っぽさの片鱗を秘めていて、時間とともに大人っぽさが育っていく予感があります。
このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。
Elle Tremble / エレ トランブル
ヴィンテージ:2020
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:メルロー 100%
レ ボワ ペルデュの2年目の作品のひとつ、エレ トランブル。初ヴィンテージの2019年に引き続いての登場です。「彼女は震えている」という意味のこのワインは、彼女たちの初ヴィンテージの思い出のエピソードにちなんで名付けられました。
初ヴィンテージとなった前年、2019年の夏は、非常に過酷な暑さに見舞われた年で、ブドウはどんどんと凝縮していき、潜在アルコール度数は15%にまで達するようになりました。
ここまでの潜在アルコール度数を備えたブドウをサン スフル(亜硫酸無添加)でワインに仕上げるのは、一筋縄ではいきません。 常にヴィネガーになってしまうリスクをヒヤヒヤしながら見守りながら、ついに完成したワインは、非常にバランスの優れた柔らかい果実味とたっぷりの旨味を備えたワインとなりました。
キュヴェ名の由来は、発酵中のこのワインが冬の気温低下でその発酵を止めてしまった(造り手としては非常に心配な状態な)まさにその時、この地域では珍しい大きな地震が発生しました。村の古い教会の壁が剥落するなど、地震に慣れていないこの地域の人々にとってはかなり驚いた出来事だったと言います。
ところが、その地震が起こったまさにその時から、止まっていた発酵が再開したのです。この大地の震えによって、ワインが救われたことから「エレ トランブル(彼女は震えている)」と名付けられました。フランス語で「大地」は、la terre(ラ テール)という女性名詞なので、「彼女は震えている」という名前につながるわけです。
加えてもうひとつの意味が、長らく映画関連の仕事に就いていたレナとアレクシが馴染みのある表現で、大きな舞台に立つ前に緊張と高揚感から体が震えてしまう武者震いのような表現がフランス語にもあり、人生初となるワイン造りとなったこの年の自分たちの姿と想いを重ねてこの表現を使用したとも言います。
さて、そんな思い出深い名前のこのキュヴェも2年目となりました。前年に引き続き、2020年も濃密ながら引っかかりを感じさせないなめらかな果実味と黒スグリやブラックベリーのような艶っぽさのある香りがあり、ほんのり上質なカカオを思わせるスモーキーさも感じます。低い重心の落ち着いたボディがありつつもみずみずしさも損なわれず、素朴ながらも華やかさも備えたバランスとなっています。
収穫したブドウの半分を除梗し、残り半分は房ごと圧搾して、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。