Les Bois Perdus – Chap.07

ワイン造りとはアートじゃなくて、職人的な仕事の積み重ねなんだ

Alexis Robin / アレクシ ロバン

ワインはアートじゃない、仕事を積み重ねた先にある1本のフィルム

「ワイン造りとはアートじゃなくて、職人的な仕事の積み重ねなんだ」

​​とアレクシは画面越しに言った。

パンデミックの真っただ中で、彼らのセラーを訪問することができず、私たちはZoomで話していた。

レ ボワ ペルデュのアレクシとレナ、元々は映画の世界で働いていた2人。映画製作とワイン造りに共通するのは、良い作品を作るのは、天才的なひらめきではなく、日々の小さな仕事の積み重ねだということ。

映画というのは、何百人もの人間が、それぞれの持ち場で黙々と仕事をする。カメラマンはカメラを回し、照明係は光を調整し、音響係は音を拾う。誰一人として「天才」と呼ばれる必要はなく、ただ、自分の持ち場で最高の仕事をするだけ。そして気がつけば、そこには一本の映画が完成している。

アレクシが言うには、自然派ワイン造りも同じなんだという。毎日のブドウの世話、収穫の判断、発酵の見守り、熟成の忍耐。それらの小さな作業の積み重ねを経て、やがて一本のワインが誕生する。

グラスに注がれたアレクシの誠実さ

先日、アレクシが日本に来てくれた。

彼は元々カメラアシスタントだったせいか、日本の風景を写真に収めては、フランスの仲間や家族に送っていた。

「普段はそんなにメッセージしないんだけどね」

と言いながら、彼が見たもの、聞いたもの、体験したものを細やかに伝える姿に、私は少しびっくりした。

イベントや試飲会での彼の姿も印象的だった。常にワインのコンディションを気にしながら、お客さんの表情や反応に気を配る。彼は本当に気配りのできる人だと感じ、その人柄は、やはり目の前のワインからも感じられた。

2023年の終わり頃、彼らに危機が訪れた。

日本以外からの注文が急減したのだという。けれど、ふたりは落ち込むよりも先に行動した。アレクシは車を走らせ、フランス各地のサロンやワインショップ、レストランを回ったんだという。

その結果、現在は8割がフランス国内で消費され、残りの2割がほぼ日本に輸出されているらしい。

この成功は、単純なサクセスストーリーではないと思う。

会ったこともない人に電話をかけ、自分たちのワインを試飲してもらう。「あれは結構ストレスだったね」と今では笑って話しているけれど、本当に大変な仕事だったと思う。

日本で長く時間を一緒に過ごして、この成功は彼の人柄にあったんだろうと確信した。彼の細やかで丁寧な姿勢が多くの顧客の心を掴んだのだと思う。

頭が下がる。
見習わなきゃ。

美しい矛盾

今回の来日中、レナについても、アレクシは色々と教えてくれた。

「レナは完璧主義者なんだ。素晴らしい品質のブドウを育て、偉大なワインを造りたいと思っている」

確かに、実際にレナに会うと、彼女は凛とした雰囲気の芯の通った女性だった。今では、彼女は主に畑での仕事を担当し、アレクシは醸造と営業を担う。役割は分けられているけれど、そこには対等な信頼がある。そして2人はよく話し合うんだと言う。

彼らによれば、ワイン造りには3つの重要な局面があるという。収穫のタイミング、アッサンブラージュ(ブレンド)の決定、そして瓶詰めのタイミング。この3つの決断がワインを決めるのだという。だから2人は話し合い、議論し、最適な答えを探す。

「でもね」とアレクシが言った。
「最終的にはいつもレナが勝つんだけどね」

彼ら2人が目指しているワインには、ちょっとした矛盾がある。いや、美しい矛盾と言ったほうがいいかもしれない。

「もう一杯」と思わず手が伸びる飲み心地の良さがありつつ、でもその奥には、迷い込んだ森みたいに複雑で、しっかりとした層を持った味わい。つまり、「飲みやすい」のに、決して「単純」じゃないワイン。

この絶妙なバランスを生み出すために、アレクシとレナは何度も話し合い、時には議論する。

これこそが映画の編集作業のようであり、やはりレ ボワ ペルデュのワインは彼らの作品なんだと気づかされる。

+ 造り手紹介

Libelulle / リベリュル

ヴィンテージ:2023
タイプ:白
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:マルサンヌ 60%、ユニ ブラン 40%

キュヴェ名のリベリュルは、フランス語で「トンボ」の意味。この白ワインは、爽やかな酸と美しいミネラル感のバランスをコンセプトにし、フランスでは、芽吹きの春の季節に小川でトンボが飛び始める様子から春にぴったりのワインとして名付けられました。

2023年のこのワインは、マルサンヌとユニ ブランのアッサンブラージュ(ブレンド)で造られています。特筆すべき点は、マルサンヌが彼らの畑に2021年に植樹された、自分たちで栽培したブドウを使用していることです。植えられてからわずか2年で収穫されたものですが、これは通常なら考えられない速さです。植樹した年からの天候、土地との相性、そして彼らの愛情が重なり合い、思いがけない結果を生み出しました。

草原をイメージさせる爽快なハーブのニュアンスと柑橘のフレッシュな風味、余韻に残るしいかりとしたミネラル感、低めのアルコール度数ながらも果実味はしっかりと感じられ、しっかりと広がりのある味わいが楽しめます。

このワインは、ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

Elle Danse / エレ ダンス

ヴィンテージ:2023
タイプ:ロゼ
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:メルロー 70%、シラー 15%、サンソー 15%

キュヴェ名のエレ ダンスは、フランス語で「彼女は踊る」という意味で、軽快な酸味とフレッシュさを残し、キュートで花やかな果実味がコンセプトのワイン。

2023年は、メルロー、シラー、サンソーのアッサンブラージュ(ブレンド)で造られています。メインのブドウとなるメルローは、フレッシュさを残すために斜面下部の肥沃な畑で少し早めに収穫されたものを使用し、じっくりと時間をかけて直接圧搾(ダイレクトプレス)し、その色調や風味を引き出しています。

軽快なロゼというよりは、淡い赤ワインに近い色調と密度を持ち、果実味も豊かで生き生きとした味わい。チャーミングさもありつつも赤系果実の熟した風味は、艶やかさも感じます。

このワインは、ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

Embrasse-Moi / アンブラッセ モワ

ヴィンテージ:2023
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:グルナッシュ 80%、サンソー 20%

キュヴェ名のアンブラッセ モワは、フランス語で「キスして」という意味で、ちょっとキュンとさせられるエモーショナルなネーミングのワインです。 エレ ダンスと同じく淡い色調の赤ワインですが、飲み心地の中にも複雑さを持つワインがコンセプト。

2023年のこのワインは、グルナッシュとサンソーのアッサンブラージュ(ブレンド)で造られています。特にグルナッシュは、彼らの畑に2021年に植樹され、自分たちで栽培したブドウが用いられています。植えられてからわずか2年という奇跡的な速さで成長し、収穫されたブドウで、植樹した年からの天候、土地との相性、そして彼らの愛情が重なり合い、思いがけない結果を生み出しました。

48時間というゆっくりと時間をかけて直接圧搾(ダイレクトプレス)して造られたこのワインは、淡く艶やかな赤色の色調と、グルナッシュらしい女性的で華やかな香り、なめらかな木苺のような果実味と複雑な余韻をもった素晴らしいバランスに仕上がりました。

フランスではリリースからわずか1ヵ月で売り切れてしまったという人気のワインで、最高の飲み心地とぎゅっと凝縮した複雑味を備えたワインです。

このワインは、ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

Sonatine / ソナティーヌ

ヴィンテージ:2023
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:ガメイ 100%

ソナティーヌ(ソナチネ:短い器楽曲)という美しい名前を持つこのワインは、ブドウ品種にガメイが100%用いられています。映画好きの彼らが、北野武監督の同名映画「ソナチネ」から名前を取りました。この映画は、比較的軽快なトーンで始まりながらも、物語が進むにつれてより深く、より深刻なテーマへと移行していくストーリーですが、この流れがカジュアルなイメージのガメイという品種のワインが、実は奥深さを秘めているという姿と重ね合わせています。

レ ボワ ペルデュでは今後、自分たちが育てたブドウの比率を高めてワインを造っていく計画がありますが、このガメイに関しては、今後も買いブドウでのワイン造りを続ける予定だとか。その理由は、このガメイを育てる栽培家が素晴らしい人物であり、またその畑のテロワールや生み出されるブドウの品質も素晴らしいため、この栽培家よりも良いガメイを自分たちの土地で育てることは不可能だと確信しているからです。

初期からレ ボワ ペルデュのワイン造りをサポートしてくれているアントナン アゾーニも一目を置くというこのガメイは、造り手たちの間で、アルデシュのグランクリュだと言われています。

2023年の味わいは、重厚な果実味としっかりとしたアルコール感を感じつつも、どこか飲み心地がしなやかで柔らかい印象を受けます。余韻も長く複雑で、しっとりとした表現の中にも、はっとさせられるような深みがあり、飲めば飲むほどこのワインの持つの深さに引きつけられます。

このワインは、ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

Elle Tremble / エレ トランブル

ヴィンテージ:2022
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:メルロー 100%

キュヴェ名のエレ トランブルは、フランス語で「彼女は震えている」という意味。レ ボワ ペルデュの初ヴィンテージからリリースされているこのキュヴェは、初めての年に起こった思い出のエピソードにちなんで名付けられました。

初ヴィンテージとなった2019年、発酵中のこのキュヴェが、冬の気温低下でその発酵を止めてしまった(造り手としては非常に心配な状態な)まさにその時、この地域では珍しい大きな地震が発生しました。ところが、その地震が起こったまさにその時から、止まっていた発酵が再開したのです。この大地の震えによって、ワインが救われたことから「エレ トランブル(彼女は震えている)」と名付けられました。フランス語で「大地」は、la terre(ラ テール)という女性名詞なので、「彼女は震えている」という名前につながるわけです。

メルロー100%で造られた2022年は、非常に暑くて乾燥した年となり、結果的に果実の熟度は上がったものの、発酵がなかなか完了せずに1年たってもまだ発酵が終わらないという事態に見舞われました。亜硫酸無添加でワインを作る造り手にとって、発酵がスムーズに終わらないというのは非常にストレスの多い状況でしたが、最終的に2023年のワインの澱(おり)を2022年に追加し、無事発酵を終えることができました。

「飲み心地は良いが、複雑さも兼ね備えたワイン」というレ ボワ ペルデュの理想を実現するために、このワインに関しては、半量のブドウを黒ブドウにも関わらず直接圧搾(ダイレクトプレス)し、もう半量を除梗し、その果粒を直接圧搾した果汁に浸け込むという手法で造られています。さながら紅茶の抽出のようなこの手法は、伝説的な醸造家であるジャン=マルク ブリニョ氏が実践していたとされ、鈍重になりやすい黒ブドウで飲み心地の良さと複雑さを両立させる方法としてジル アゾーニのアドバイスにより採用されました。

2022年は、黒系果実を思わせるぐっと集中力と凝縮感を感じる果実味があり、どこかスモーキーなニュアンスも感じますが、しなやかな口当たりと長い余韻を備えたエレガントなワインに仕上がっています。非常に複雑、それでいて飲み心地は良いというまさにレ ボワ ペルデュの理想を体現したワインとなっています。

このワインは、ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

Aphrodite / アフロディート

ヴィンテージ:2022
タイプ:赤
産地:フランス コート デュ ローヌ地方
品種:グルナッシュ 65%、シラー 35%

キュヴェ名のアフロディート(日語:アフロディーテ)は、ギリシア神話の女神で、愛と美と性を司る神とされています。グルナッシュの女性的で華やかな風味を表現することがコンセプトのこのキュヴェは、グルナッシュとシラーのアッサンブラージュ(ブレンド)によって造られます。

グルナッシュを表現するためのキュヴェであるにもかかわらずシラーがブレンドされる理由として、酸化的な傾向のあるグルナッシュに還元的な傾向のあるシラーをブレンドすることによって、相反するキャラクターがお互いを打ち消しあい、バランスの取れた仕上がりになるためと言います。

2022年は、非常に暑くて乾燥した年となり、結果的に果実の熟度は上がったものの、発酵がなかなか完了せずに1年たってもまだ発酵が終わらないという事態に見舞われました。亜硫酸無添加でワインを作る造り手にとって、発酵がスムーズに終わらないというのは非常にストレスの多い状況でしたが、最終的に2023年のワインの澱(おり)を2022年に追加し、無事発酵を終えることができました。

「飲み心地は良いが、複雑さも兼ね備えたワイン」というレ ボワ ペルデュの理想を実現するために、このワインに関しては、グルナッシュを直接圧搾(ダイレクトプレス)し、シラーを除梗し、その果粒を直接圧搾した果汁に浸け込むという手法で造られています。さながら紅茶の抽出のようなこの手法は、伝説的な醸造家であるジャン=マルク ブリニョ氏が実践していたとされ、鈍重になりやすい黒ブドウで飲み心地の良さと複雑さを両立させる方法としてジル アゾーニのアドバイスにより採用されました。

2022年は、グルナッシュの艶やかで華やかなキャラクターが前面に出たアロマティックな仕上がりとなっており、凝縮した果実味とともにエレガントで広がりのある味わいのバランスとなっています。

このワインは、ブドウはビオロジックで栽培されたものを用い、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。