Xavier Marchais – Chap.01
パリでのコンピューターエンジニアの仕事は、興味深い仕事ではあったけど、意味は見い出せなかった。
Xavier Marchais / グザヴィエ マルシェ
畑に向かう車に乗るとグランジよりのハードロックやメタルが爆音でかかり、家にはIbanezのギターやベース。よく似合う丸縁のサングラスと両腕のタトゥーがさながらヘビメタアーティストのような、ちょっといかつくて、実はチャーミングな性格の人。
be a good friendとしては4人目の友人、グザヴィエ マルシェ。
大学ではいわゆる「つぶしがきく」ような勉強をし、そのままパリでコンピューターエンジニアとなったグザヴィエ。
「興味深い仕事ではあったけど、意味は見い出せなかった。」
長女の誕生を気に、自分の人生が何たるかを考え直しはじめた彼は、自分自身が大きな歯車に絡め取られているように感じたと言います。
お金を稼ぐゲームのようだったという都会での仕事を離れ、地に足ついた仕事をしたい。そう考え始めたグザヴィエがたどり着いたのがヴィニュロン(ブドウ栽培者・ワイン生産者)という天職でした。
そんな彼ともかれこれ古い付き合いとなりましたが、今でもはじめて彼を訪ねた時のことを鮮明に覚えています。
彼とその家族が住む建物は、古く簡素で、見ると扉や窓がついていない箇所があり、それを自分たちで修繕して使っていました。醸造所となる迎えの建物も条件的にはほぼ同じで、まさに大きな夢を持った若者が挑戦するにふさわしい舞台でした。
月日は流れ、そんなグザヴィエも歳を重ね、今は、新しいステージに立ってます。
年々手を入れて改修された自宅は快適なものになり、同じ敷地内には、世界中からWWOOF(ウーフ)World Wide Opportunities on Organic Farms プログラムでやってくる若者が寝泊まりするキャンピングカーがいくつも置かれ、その他にも自家菜園があったり、鶏が飼われていたり、コンポストトイレがあったりと、さながら小さな村のように育っています。
そして、そこで暮らすみんなが集う半屋外の広場があって、それは大きなガレージのような建物で、入り口は外に向けて大きく開かれ、そこにテーブルやソファーや椅子を沢山置いていて、1日の仕事を終えたみんなで食事をしたり、ワインを飲んだり、音楽を聴いたり、語り合ったりしています。
そうして、志を同じくする人が集うコミュニティをもつようになって、グザヴィエ自身もとても穏やかになったように感じます。
当初は5haほどの畑でスタートした彼も、現在は畑を3haほどに縮小し、自身が管理していた畑を同じ地域で新しく自然派ワイン作りに挑戦しようとする若者たちに譲り渡すなどして、コミュニティのメンターへと役割を少しづつシフトしています。
当初のグザヴィエ マルシェのワインは、非常にシリアスでストイックなワインという印象でした。しかし、今日現在の彼のワインからは、少し肩の力が抜けた、穏やかさや、柔らかさを感じられるようになりました。
そしてもちろん変わらない部分も。
ブドウ栽培を始めてから、畑では一貫して化学肥料や除草剤を用いない栽培を続け、ビオロジックであり、ビオディナミ栽培を真摯に取り組んでいます。
ワイン醸造においても、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加とナチュラルな手法を選び続けています。
グザヴィエ マルシェのワインは、いつもワクワクさせてくれるエモーションに満ちています。個人的には、これが自然派ワインの何よりの魅力です。
今回は、久しぶりに彼のワインを日本で飲む機会となりました。それらはどれも、グザヴィエのワインらしい、ワクワクさせてくれるエモーションに満ちたワインたちばかりでした。
Elixir de Jouvence / エリクシール ドゥ ジュヴォンス
ヴィンテージ:NV (2018)
タイプ:ロゼ
産地:フランス ロワール地方
品種:シュナン ブラン、ピノ ドニス
グザヴィエ マルシェが手がけるワインは全て、Elixir(仏 エリクシール / 英 エリクサー)を冠した名前になっており、このエリクシールとは、錬金術における、服用することで如何なる病も治すことができ、永遠の命を得ることすらできると言われる伝説の万能薬のことです。一切の添加物を加えることなく、自然の営みと人の努力によって誕生したブドウのみを用いた、神秘の飲み物である彼のワインを表現するに相応しい言葉だと言えます。
エリクシール ドゥ ジュヴォンスは、「若さの霊薬」の意味で、これまでのヴィンテージはシュナン ブランを用いた白ワインでしたが、2018年に関しては、黒ブドウのピノ ドニスを加えロゼワインとなりました。
熟したシュナン ブランの蜂蜜や白桃を思わせる柔らかな果実の風味と爽快なミネラルにピノ ドニスのチャーミングな果実味と引き締まったボディが加わり、フォーカスのしっかりと定まった清々しいバランスのワインに仕上がっています。
色調は見紛うことなくロゼなのですが、味わい的にはシュナン ブランの雰囲気を強く感じます。可愛らしいロゼというよりも、ズバッと一本芯が通ったタイプとなっています。抜栓後も不安定な雰囲気は出ずに、翌日までバランスを崩すことなく楽しむことができます。このワインは、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。
l’Elixir de d’Amour / レリクシール ダムール
ヴィンテージ:NV (2011)
タイプ:白甘
産地:フランス ロワール地方
品種:シュナン ブラン 100%
グザヴィエ マルシェが手がけるワインは全て、Elixir(仏 エリクシール / 英 エリクサー)を冠した名前になっており、このエリクシールとは、錬金術における、服用することで如何なる病も治すことができ、永遠の命を得ることすらできると言われる伝説の万能薬のことです。一切の添加物を加えることなく、自然の営みと人の努力によって誕生したブドウのみを用いた、神秘の飲み物である彼のワインを表現するに相応しい言葉だと言えます。
レリクシール ダムールは、「愛の霊薬」の意味で、ドライタイプから甘口に至るまで、様々な表現を備えている品種として、多くの造り手が敬愛するシュナン ブランを用いたデザートワインです。
ブドウが十分に成熟した後もさらに収穫を待ち、気温が下がり冬に向かうプロセスの中で、徐々に果実の中の水分が蒸発し、甘美な甘い蜜のような液体が、ブドウの粒に備わるようになるタイミングまで待って収穫して造られる特別なワインです。
2011年は、グザヴィエ マルシェが、コンピューターエンジニアの職を辞してワイン生産者に転向した直後にあたる事実上のファーストヴィンテージです。この2011年は、ファーストヴィンテージでありながら、大地のエネルギーをこれでもかと詰めることに成功したヴィンテージで、途方も無いポテンシャルを秘めたヴィンテージとなりました。
そのワインを、厳密な期間は推定となりますが、樽熟成を4年、その後ボトルでの熟成を待ち続け、今もなおストックしていたことは、想像も使いない奇跡と言えます。
単に甘いだけのワインとは全く次元の異なる奥行き、表現力、世界観を備えていて、オレンジの皮のような雰囲気からはじまり、酸がしっかりと感じられる深い旨みにつながり、そこから様々な風景を見せてくれます。今までの人生の色々な景色がフラッシュバックするような感覚に陥ります。
これは瞑想のためのワインであり、哲学が深めることのできるワインと言えます。そして、このワインの名前が示す通り、愛を深めるために飲んでいただくのも良いでしょう。事実、このワインと同じ名前で、ガエターノ・ドニゼッティ作曲で1832年に初演された『愛の妙薬』というオペラが存在します。どういう作用があるか、ぜひお試し頂ければと思います。
甘口は一度に沢山召し上がらないという方も多いと思いますが、これだけの年月の熟成を経たワインであり、かつ甘口ということもあり、抜栓後も永くその魅力を楽しむことができます。もちろん瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加ですが、これは甘口ワインにおいては非常に難しく、リスクのある選択だったことを申し添えたいと思います。