Xavier Marchais – Chap.02

自然を尊重した栽培っていうのは、人ができることは少ないんだ。大きな理に従うだけさ。だから醸造では、色々と遊んでみたくなるんだ。

Xavier Marchais / グザヴィエ マルシェ

フランス ロワール地方は広大な面積を備えるワイン産地であり、それこそ多種多様なワインが生まれる土壌です。

中でも自然派ワインのホットスポットとなっているのは、アンジュ地区。先駆者がいて、手頃な畑があって、仲間が集いやすい、そんなアンジュの地に移り住み、自然派ワイン造りをはじめたのがグザヴィエ マルシェです。

もともとパリでコンピューターエンジニアとして働いたグザヴィエは、長女の誕生を機に、お金を稼ぐゲームのようだったという都会での仕事を離れ、地に足ついた仕事をしたいと移住し、自然派ワイン生産者となりました。

そんな彼もキャリアを重ね、中堅生産者となり、現在は世界中からナチュラルな生活を志向する若者たちを集めながら、本当に純粋な自然派ワイン造りに取り組んでいます。

ファーストヴィンテージの頃から、もう何度も彼の元を訪れていますが、グザヴィエのナチュラルライフの徹底ぶりは全く変わりません。

初めて彼の自宅兼醸造所を訪問した際、まだ手に入れたばかりであろう古い石造りの家をDIYで徐々に住みよいものに改造していたのですが、初期の段階ではドアや窓も満足に整備されておらず、シートをかけてしのいでいたりしていました。

そんな時でも、訪問時に用意してくれる食事の食材に限らず調味料に至るまで、すべてビオのもの。「もちろん少し高いんだけれども、ちゃんとしたものに対価を払いたし、何より良いものだからね」と話してくれたことが思い出されます。

当初の一見不便に見えるような生活も本人にとっては、ワクワクするようなチャレンジであったようで、以来、単純な利便性を追いかけるのではなく、自然と共生する生き方を大事にした家づくりに取り組んでいました。

その数年後の訪問時には、順調に収穫が得られるようになった家庭菜園の話で盛り上がり、無農薬栽培はもちろんのことながら、栽培する品目が固定種であることの重要性を話し合いました。

まるで宝箱のように様々な種が入った箱から種袋を取り出しながら、フランスにはこんな品種やこんなのもあるんだよと教えてくれました。そんな種たちも、全てビオの種。それはつまり、採種の段階に至るまでビオで栽培された種であるという徹底ぷりです(日本では固定種はあっても、そのオーガニック種子というのはなかなかお目にかかれません)。

彼の元には冬に訪問することが多いのですが、そんな冬の訪問の定番は、黒丸大根の生のスライスを食べながらする試飲です。

この黒丸大根は、ヨーロッパ原産の冬の定番野菜。辛味が強いものの生で食べることも多いとのことで、アペリティフのスナックのように出されるのが、彼の元を訪れたときの定番です。

そして、毎回のように「辛いかい?ワインの試飲するときには辛い?でも、僕は好きなんだよね」と言い、イヒッといたずらっ子ぽく笑います。

写真だと結構強面に見えるグザヴィエですが、こういう時に見せる笑顔は、彼のあどけない一面が見られる典型的なシーンです。

さて、そんな冬の訪れに合わせて、今日はグザヴィエ マルシェの赤ワインたちのご紹介といきたいと思います。

+ 造り手詳細

Elixir de Longue-Vie / エリクシール ドゥ ロング=ヴィ

ヴィンテージ:NV (2017)
タイプ:赤
産地:フランス ロワール地方
品種:カベルネ フラン 100%

「長寿の霊薬」と名付けられたエリクシール ドゥ ロング=ヴィは、カベルネ フランから造られる赤ワインで、ヴィンテージは2017年のもの。be a good friend としてはじめて彼のワインを輸入するにあたり、少し古いヴィンテージをわけてくれました。

瓶詰めから少し熟成を経て、大人っぽい落ち着いた雰囲気をまとったワインとなっていて、火薬や胡椒を思わせるようなスパイシーな風味とキノコや木の実、森を思わせるような香ばしさ、晩熟の山葡萄を思わせる緻密な果実味にしっかりとしたタンニンを感じるバランスとなっています。

これはまさに野趣あふれる秋・冬の食材と一緒に楽しんほしいワインであり、なかでも人の手によって肥育されていない肉類(ジビエ)との相性は抜群で、日本でも増殖し農業被害をもたらしている猪や鹿などとぜひ一緒に召し上がっていただきたいです。

参考:肥育されている肉を食べている場合でない(食べちゃうけど)

このワインは、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られていますが、抜栓後も不安定な雰囲気は出ずに、翌日までバランスを崩すことなく楽しむことができます。

また厳密な濾過(ろか)も行われていないため瓶内には細かな澱(おり)が見られ、瓶に最後に残ったワインを飲む際には、澱(おり)が混じるようになりますが、もちろんブドウのみから造られる純粋なワインで、飲用に問題はありません。気になる場合は、瓶底に近づくにつれ、そっとグラスに注ぐようにしていただければ瓶内に澱(おり)を残すことができます。

Elixir de Tre Longue Vie / エリクシール ドゥ トレ ロング ヴィ

ヴィンテージ:NV (2019)
タイプ:赤
産地:フランス ロワール地方
品種:カベルネ フラン 100%

「超長寿の霊薬」と名付けられたエリクシール ドゥ トレ ロング ヴィは、カベルネ フランから造られる赤ワインで、2019年ヴィンテージよりエチケット(ラベル)のデザインが神秘的なクラゲのデザインへとリニューアルされました。

そもそもどうしてクラゲなのかという点を造り手に確認したわけではないのですが、クラゲの寿命について調べると興味深いエピソードが見つかりました。

クラゲのなかでもベニクラゲと呼ばれる種は、成熟個体から外部からの刺激などをきっかけに若返ることができ、そのサイクルを繰り返すことが可能です。そのため「不老不死のクラゲ」と呼ばれています。一説によると5億年前からこのサイクルを繰り返している個体の存在も示唆されているとか。まさに「超長寿」の生命です。しかし、水の温度や汚れの度合いなど、海の状態によって、不老不死の能力を発揮できないこともあると言われており、自然環境を守ることを大切にしているグザヴィエ マルシェにとって、象徴的な生命と言えそうです。

今回ご紹介する2019年は、グザヴィエ マルシェにとって天候に恵まれたヴィンテージとなり、質・量ともに満足のいく年となり、そのブドウをいかしたワイン造りをとマセレーション(醸し)の期間を短くした、フレッシュでスムーズな飲み心地の赤ワインと仕上げたのが、このワインです。

豊作に恵まれたとはいえ、このワインを造るカベルネ フランのおおよその収穫量は 24hl/ha とこの地域の赤ワインの平均的な収穫量の半分ほどとなり、一粒一粒に土地の味わいと気候を封じ込るべくストイックな栽培を実践しています。

味わいは、山葡萄や黒スグリといった果実の鮮やかな風味がまず印象的で、フレッシュかつ柔らかなタッチの果実味が、スムーズな飲み心地を感じさせてくれます。いきいきとした果実の風味があり、カベルネ フランにありがちな収斂性はなく、青さは感じさせません。木の実や胡椒といったスパイシーさがあり、森深い山の熟れた野生の果実のニュアンスを感じさせてくれるような初秋の趣を感じるバランスです。

キノコ、蓮根、ゴボウ、その他の根菜、猪、鹿、身の引き締まった地鶏や野鳥、脂身の甘い豚肉など、赤ワインとの相性が良さそうな秋冬の食材とはもちろん抜群の相性ですが、パセリやパプリカを使ったソースなど、夏の名残を感じさせる野菜やハーブを使った料理とも良いハーモニーを奏でます。

このワインは、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られていますが、抜栓後も不安定な雰囲気は出ずに、翌日までバランスを崩すことなく楽しむことができます。