Benoît Camus – Chap.03

ブノワ カミュ

冷え切ったワインを抜栓する時は、必ず抜栓する前に暖めなきゃだめだ。必ずね。

Benoît Camus / ブノワ カミュ

他人の価値観のモノサシで生きない

ブノワのワイン、久しぶりの入荷になりました。

ちょうど一年ほど前に輸入を計画していたタイミングがあったのですが、その時点ではまだ瓶詰めがされておらず、そのまま雪が降って冬に突入してしまったので、瓶詰めが今年の春まで延期されました。

気温が低い時期に瓶詰めするとワインがダメージを受けてしまうということで、春まで待ってそこからはるばる日本にやってきたワインたちです。

この気温が低い時に瓶詰めをしないというのは、ブノワいわく非常に重要で、ワインの温度が低いと酸化しやすくなり、結果としてワインにダメージを大きく与えてしまうと言います。

そのためブノワは、冬にワインを抜栓する場合もある程度ほどよい温度にワインを整えてからしかコルクを開けません。こうすることで抜栓後のワインのコンディションも全然違ったものになると言います。

実際にブノワ以外のワインでも試してみましたが、確かにワインが安定します。

こういう細部まできっちりと気を配るのがブノワらしい一面ですが、一方で本人が本質的でないとあまり興味がない分野に関しては、かなり緩いのもブノワらしい一面です。

ちなみに、この温度を抜栓前に馴染ませたほうが良いよという話は、ポッドキャストでも紹介しています。

今回もそんな両面あるブノワの人柄がワインからもボトルからも溢れています。

というのも、毎回のようなご案内で大変恐縮なのですが、今回リリースするワインの多くが、またまたエチケット(ラベル)に汚れや破れがあったりボトルに汚れがあります。

ワインの中身に関係ない点にはあまり頓着しないブノワらしいインポーター泣かせな状況なのですが、以下の写真をご覧いただくと、こんな風にボトル1本1本を手動で打栓して、エチケット(ラベル)も手貼りをしていたら、専用の機械でやるように綺麗にはならないよなとイメージできます。

手動でコルクを打栓するブノワ
手貼りでエチケット(ラベル)を貼るブノワ

その分というわけではありませんが、「オレのワインは、いつも安いだろ」とよく言われます。

確かに、中身のワインはいつもシリアスな仕上がりで、テンションの高さや秘めているポテンシャルを感じるすごいワインだと、いつも感心させられます。

自分が本質的に重要と考える部分への集中力と繊細な気配りと、あまり優先度が高くないと考える部分への緩さのコントラストが、ブノワらしいなと思います。

このオンオフのはっきりした価値観は、彼の暮らしからも垣間見れて、水道も電気もない畑の真ん中にトレーラーハウスを置いて暮らしていて、水は定期的に近くの湧き水を汲みに行き、電気は小さなソーラーパネルでまかなえる分だけで暮らしています。

春から夏にかけてはトレーラーハウスの脇の小さな家庭菜園で野菜を育て、秋には同じくトレーラーハウスの脇に自然に生えるスーパーマリオのようなキノコを採集しては食べる。その他の食材も、冷蔵庫を持たないので数日内に食べきれる分だけを調達し、半ば自給自足のような生活です。

そして余暇の時間には、ギターやバイオリンで大好きな音楽を奏でたり、大好きなバイクに跨り颯爽と駆ける。

ブノワ カミュの一番の楽しみはバイク

「家を借りてもいいんだけど、高いし、今はこれで十分なんだよね。家はそのうち自分で建てるさ。」

本当に欲がないというか、メリハリがしっかりした生活です。

自分が大切だと思うことには投資をする。無頓着な部分はお金も時間もかけない。だからワインも手頃…ということらしいです。

現代社会で幸せに生きる方法として、「他人の価値観のモノサシで生きない」というのがあると思うのですが、まさにブノワは自分の価値観のモノサシをしっかり持って生きているなと思います。

ちなみに最後に会った時には、自分の畑の(トレーラーハウスの横の畑は他の人の所有)隣の森を買ったと言っていました。

「ここにトラクターを置くための小屋を建てたり、家もここに建てようかな…」

ボジョレーの吟遊詩人

ボジョレー地方の南の街、ヴィルフランシュ=シュル=ソーヌから西に車で15分ほど。畑の真ん中にピンが立ったグーグルマップが送られてくるのがブノワ カミュとの待ち合わせの定番。

彼のワインのラインナップの1つであるシャトー ルーランのエチケット(ラベル)に描かれたそのままの畑の真ん中のトレーラーハウスを訪れます。

自然を愛し、音楽を愛し、バイクを愛するブノワ カミュが手掛けるワインは、シリアスで集中力のあるワインでありながら開放感も併せ持つという奔放なワイン。

ジャズの即興演奏のことをインプロビゼーションと言い、その意味である「型にとらわれず自由に思うままに作り上げる演奏」をワインでも表現しているのがブノワのワインです。

それでいてブノワが本質的でない、重要でないと思った部分に関しては、本当に無頓着で、いつもエチケット(ラベル)は汚れていたり、破れていたりします。

何かに縛られずに自己を表現する様は、これぞ現代の吟遊詩人だなといつも思わされます。

卓越した白ワインとガメイの3部作

そんなブノワ カミュのワインのニューリリース。今回は以下の4種類のワインが到着しました。

  • エヴェイユ フローラル NV (20)
  • ル ヴァガボン NV (20)
  • シャトー ルーラン NV (20-21)
  • テール ルージュ NV (21)

「花のような目覚め」といった意味の白ワイン、エヴェイユ フローラルは、この年も直接圧搾(ダイレクト プレス)でスタンダードな白ワインのスタイルながら、相変わらずの液体の集中力と塩っけの感じるミネラルがあり、今でも凄みを感じるものの将来が楽しみでしかないワイン。

そしてジャズでいうところのテーマ(主題)にあたるガメイによる赤ワインは、今回は3部構成。

暑く乾燥した気候により熟度もあがり力強く凝縮した2020年

打って変わって繊細で細身でしなやかな年となった2021年

この極端な味わいとなったそれぞれのヴィンテージを、ブレンドすることでそれぞれが支え合いバランスをとったアッサンブラージュ(ブレンド)のキュヴェ

の3種類となっています。

例によって、ブノワはエチケット(ラベル)やキュヴェ名に年をまたいでの一貫性はなく、場合によっては日本に来ているあるキュヴェと他の国に旅立った同じ名前のキュヴェでも中身が一致しないことも。

以前のル ヴァガボンの延長に今回のル ヴァガボンはなく、シャトー ルーランも全く異なるシャトー ルーランとなっていて、まさにインプロビゼーション(即興演奏)のようなワインたち。

ただ、その仕上がりは、どれも秀逸の一言です。

繰り返しの注意点となりますが、多少のばらつきはあるものの全てのワインにエチケット(ラベル)汚れや破れ、ボトル汚れが見られます。またキャップシールは付けられていません。

ぜひブノワのワインの本質を楽しんで頂ければと思います。

※NVはノンヴィンテージの略称です。

+ 造り手詳細

Éveil Floral / エヴェイユ フローラル

ヴィンテージ:NV (2020)
タイプ:白
産地:フランス ボジョレー地方
品種:シャルドネ 100%

キュヴェ名は「花のような目覚め」といった意味。ブノワにとって、手掛ける畑の面積のほとんどが黒ブドウのガメイで、白ブドウのシャルドネが植わる畑はごくわずかです。なのでブノワの白ワインは、毎年思う存分買えるというわけにはいきません。

2018年にはマセラシオン(醸し)や酸化的な環境での熟成を行った実験的な白ワインも造っていましたが、2020年はスタンダードな直接圧搾(ダイレクト プレス)の白ワインです。

塩っけの感じる豊富なミネラル感と厚みのある果実味があり、凝縮感がありつつも硬質で引き締まった味わいが特徴です。フォーカスがしっかりと定まった端正な味わいのバランスで、熟成によってさらなる進化を遂げそうなスケールの大きなワイン。抜栓後も数日間はバランスを崩すことなく、いきいきとした果実味を楽しませてくれます。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

Vagabond / ヴァガボン

ヴィンテージ:NV (2020)
タイプ:赤
産地:フランス ボジョレー地方
品種:ガメイ 100%

ヴァガボンは、「放浪者」の意味。ギターを手に、自分らしく自由に生きたいと願うブノワ カミュの想いが込められたワインです。

ブノワ カミュのワインは、どのキュヴェがどの区画のブドウからといったことや、造り方が固定されていません。その年々のできあがったワインのイメージに応じて、キュヴェ名をつけています。

今回のヴァガボンは、暑く乾燥した夏に見舞われた2020年産のガメイで造られたキュヴェです。暑い年の特徴であるアルコール度数の高さ、果実味の凝縮感、ボリューム、タンニンの深さなどが特徴です。しかしながら、果実味の優しさや余韻の柔らかさもあり、決してマッチョなタイプのワインではなく、奥行きのある大人っぽさを感じさせるバランスとなっています。

成熟した紫から黒系果実の風味があり、奔放な印象をうける開放感のある味わいのバランスで、今の時点でもほっと落ち着いて飲みすすめることができます。さらに熟成させると色々な表情を見せてくれそうなポテンシャルを見せつつも、あまり気負わず飲みすすめることもできるワインです。抜栓後も酒質は安定していて、数日にわたっていきいきとした果実味を楽しむことができます。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

※ほぼ全てのボトルにエチケット(ラベル)の汚れや破れ、ボトルの汚れがあります。またキャップシールは使用していません。予めご容赦くださいませ。

Château Roulant / シャトー ルーラン

ヴィンテージ:NV (2020-21)
タイプ:赤
産地:フランス ボジョレー地方
品種:ガメイ 100%

キュヴェ名のシャトー ルーランは「ルーラン城」という意味ですが、同時にエチケット(ラベル)に描かれているのは、畑のなかに置かれたキャンピングトレーラーとその前でギターを奏でる人物です。

これはまさに、ブノワ カミュ本人とその自宅の絵で、この場所がまさに、彼にとっては「城」なんだと思わせてくれる素敵なデザインだと思います。と同時に、伝統的なボルドーのワインが、そのエチケット(ラベル)にその荘園を管理する館(城)を描くことが多く、それへのオマージュだとも言えそうです。

今回のシャトー ルーランは、2020年ヴィンテージと2021年のワインをアッサンブラージュ(ブレンド)したというブノワらしい自由な発想のワイン。

この2つのヴィンテージは非常に対照的な年となっていて、暑く乾燥した2020年と、涼しいが湿度の高い夏であった2021年は、それぞれ凝縮したワインと軽やかで繊細なワインとなりました。この2つのヴィンテージの美点を掛け合わせ、弱点を補い合うようにという意図でブレンドされました。

結果として、意図通りのバランスの取れたワインとなっていて、2020年が骨格と凝縮感を2021年が酸としなやかな旨味をもたらしてくれていて、飲み心地の良いワインとなっています。抜栓後も酒質は安定していて、数日にわたっていきいきとした果実味を楽しむことができます。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

※ほぼ全てのボトルにエチケット(ラベル)の汚れや破れ、ボトルの汚れがあります。またキャップシールは使用していません。予めご容赦くださいませ。

Terre Rouge / テール ルージュ

ヴィンテージ:NV (2021)
タイプ:赤
産地:フランス ボジョレー地方
品種:ガメイ 100%

テール ルージュは「赤い土」という意味。新しいエチケット(ラベル)とキュヴェ名ですが、そもそもブノワ カミュのワインは、どのキュヴェがどの区画のブドウからといったことや、造り方が固定されていません。その年々のできあがったワインのイメージに応じて、エチケット(ラベル)を選択しています。

今回は2021年のワインにこのキュヴェ名が採用されました。今回、先に紹介した2種類とあわせて3部作として赤ワインをボトリングすると聞いた時、「3種類もエチケット(ラベル)のバリエーションあったっけ?」と尋ねたところ、「ふっふっふっ」とドヤ顔で出してきたのがこのテール ルージュでした(その時はじめて見ました)。

気になる味わいですが、春の遅霜、夏の湿度と冷涼な気候に苦しめられた年でしたので、いつものような凝縮感はありませんが、淡く繊細で滋味深い果実味の端正なワインに仕上がっています。青っぽさもなく、優しいアタックとじんわりと余韻に広がる旨味があり、いくらでも飲み進められるような軽妙なワインです。

それでいてワインとしての極端な脆さもなく、抜栓後も酒質は安定していて、数日にわたっていきいきとした果実味を楽しむことができます。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

※ほぼ全てのボトルにエチケット(ラベル)の汚れや破れ、ボトルの汚れがあります。またキャップシールは使用していません。予めご容赦くださいませ。