Benoît Camus – Chap.01
スピードを上げていくと、だんだん視野が狭くなるって言うだろ、僕はそうは思わないんだよね。
Benoît Camus / ブノワ カミュ
インプロビゼーション(即興演奏)のようにワインを生み出す
過去にも日本に輸入されたことがあり、またフィリップ ジャンボンのセレクション シリーズであるユンヌ トランシュでも彼の名を見ることがありました。何度か飲んだ印象は、素朴でピュアな自然派ワインらしい魅力に溢れたワインというもので、どんな人が作っているのだろうと興味を持っていました。
思い立ったが吉日ということで今年の春に早速アポイントを取り訪問してみました。
詳細は、例によって長くなってしまうので、造り手紹介ページに譲りますが、 フィリップ ジャンボンの妻であるカトリーヌが教えてくれたように、自然と音楽とバイク!を愛して、自然体で生きる魅力的な人物でした。
訪問してブノワのことを知ると色々なことに驚かされます。畑の真ん中にキャンピングトレーラーを置いて暮らすミニマルライフ、畑巡りはバイクに乗って(私は後ろに)ものすごい加速と減速を繰り返しながらの大きなGを感じるスピードツアー、試飲会にはギターとヴァイオリンを持って登場し、退屈な頃合いになると颯爽と演奏を始めるという音楽をこよなく愛する姿など、いきいきと暮らし、働く姿は、日本人から見ると羨ましくもあります。
なかでもバイクへはひとしおの思い入れがあるようで、かなりのスピードでフランスの田舎道を駆け抜ける時間は、とても大切なものだと語っていました。
「バイクでスピードを上げていくと、だんだん視野が狭くなるって言うだろ、僕はそうは思わないんだよね。アクシデントがあっても、全てがスローモーションで見えるし、バイクが身体の一部のような感覚になって、身体がどう動けば良いか自分でわかっているように動くし。ほんの数秒の出来事なのに。」
と真剣に語ってくれるブノワ。
石橋を叩いて渡る性格の人間からすると「ほぅ」という声なき声しか漏れません。
ただ、この「極限まで攻めながら最後にはきっちりとバランスを取る」というスタイルは、彼のワインの味わいに通じるものがあると感じます。
収穫量は低く抑え、自然酵母での発酵、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加と、栽培から醸造の全てのプロセスにおいて、ナチュラルかつ高い品質を追求したスタイルを貫きます。
それぞれのワインの味わいには、ワクワクさせてくれる奔放さや、ある種の危うさは感じられるにも関わらず、どれもきっちりと焦点が定まっていて破綻がありません。
ギリギリを攻めているにもかかわらず、最終的には調和がとれた味わいに仕上げてくるその手腕には率直に驚かされます。
奔放さと細やかさ、加速と減速、攻と守、相対する2つの側面を瞬時に切り替えながら、絶妙なバランスでワインを育んでいるのだと思います。
そして、この瞬間の閃きは、彼が愛するジャズ音楽でのインプロビゼーション(即興演奏)においても重要な才能です。
ふとした瞬間にヴァイオリンを手にして奏ではじめる彼の音楽は、ワインの味わいと同様に奔放かつ素朴で、それでいてどこか繊細さを感じさせてくれるものでした。
今回お届けするワインたちからは、そんなブノワ カミュの人柄をしっかりと感じさせてくれるものばかりです。ぜひお楽しみ頂ければ幸いです。
VDF Blanc La Clé des Sols / ラ クレ デ ソル
ヴィンテージ:NV (2018)
タイプ:白
産地:フランス ボジョレー地方
品種:シャルドネ 100%
ブノワ カミュは、ごく限られた面積の区画から少量のシャルドネを栽培していますが、2018年はこのシャルドネを赤ワインの手法である果皮と果汁を浸漬させるマセレーション(醸し)を5日間にわたって行い仕上げました。フィルターもかけず、亜硫酸塩(酸化防止剤)も添加せずに仕上げられたこのワインは、明るいゴールドの色調と霧のようにボトル内で舞う細やかな澱(おり)が印象的です。
抜栓直後は、やや香り立ちは控えめで、奥のほうにごくごく僅かな還元香(火薬や硫黄を思わせる香り)がありますが、十分に空気に触れさせることですぐに還元香は感じられなくなり、かわって蜂蜜やパイナップルなどの香りが感じられます。
飲み口はドライで、マセレーション(醸し)によって果皮から抽出されたタンニン分と旨みが、引き締まった印象の味わいにしています。時間の経過とともに果実味の柔らかさが表に出てくるようになり、重奏的に様々な表情を見せてくれます。
しっかりとしたボリュームとリッチさがありつつも、飲み疲れすることはなく、引き締まったボディから徐々に姿を見せるチャーミングさが好印象です。
抜栓翌日もワインは大きく崩れることはなく、香ばしさがやや弱まり、果実の柔らかな風味がより感じやすいバランスとなります。
VDF Rouge Château Roulant / シャトー ルーラン
ヴィンテージ:NV (2018)
タイプ:赤
産地:フランス ボジョレー地方
品種:ガメイ 100%
ブノワ カミュの赤ワインは、基本的には区画ごとにキュヴェを分けておらず、ブドウが適切に熟したと判断したタイミングで適宜収穫したものを発酵タンクに詰めていきます。そうして造り分けられたいくつかのタンク内のワインは、起源(オリジン)としては同じ地域・品種であるものの、それぞれが異なった成長をとげます。そして、瓶詰めされた後に、いくつかのバリエーションのエチケット(ラベル)をその時々に選び、貼付して出荷されます。
今回入荷したシャトー ルーランは、抜栓直後から外向的な性格で、ガメイらしいチャーミングな果実味がぎゅっと詰まった、エネルギーあふれる味わいです。黒系果実を思わせる風味と厚みのあるボディを備えながらも、すっと身体に染み込むような飲み心地もあります。
時間の経過とともによりいっそう風味が開いてくるので、欲を言えばもう少し旅疲れを休ませてあげたいところです。すぐに抜栓する場合は、抜栓前にワインの温度が15-16度ほどになるまで調整した上で開けるのがおすすめです。ワインが低い温度のままで抜栓すると、味わいがぐっと内向的で閉じたものになります。
瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)は添加されておらず、ピュアで素朴でナチュラルな味わいのワインですが、抜栓後も不安定な面は感じさせずに3日目ごろまで美味しく飲めます(3日目で飲み干してしまったので、それ以降は不明です)。
ちなみにキュヴェ名のシャトー ルーランは「ルーラン城」という意味ですが、同時にエチケット(ラベル)に描かれているのは、畑のなかに置かれたキャンピングトレーラーとその前でギターを奏でる人物。これはまさに、ブノワ カミュ本人とその自宅の絵で、そこはまさに、彼にとっては「城」なんだと思わせてくれる素敵なデザインだと思います。
VDF Rouge Le Vagabond / ル ヴァガボン
ヴィンテージ:NV (2018)
タイプ:赤
産地:フランス ボジョレー地方
品種:ガメイ 100%
ブノワ カミュの赤ワインは、基本的には区画ごとにキュヴェを分けておらず、ブドウが適切に熟したと判断したタイミングで適宜収穫したものを発酵タンクに詰めていきます。そうして造り分けられたいくつかのタンク内のワインは、起源(オリジン)としては同じ地域・品種であるものの、それぞれが異なった成長をとげます。そして、瓶詰めされた後に、いくつかのバリエーションのエチケット(ラベル)をその時々に選び、貼付して出荷されます。
今回入荷したル ヴァガボンは、抜栓直後は少しシャイな面持ちのワインですが、じっくりと空気に触れさせてあげることで、しなやかで柔らかい風味がぐっと引き出される女性的な印象のワインです。
はつらつとした印象のシャトー ルーランに対して、しっとりしみじみと旨みを感じさせてくれるタイプで、しなやかな果実味とバランスのよい酸味、余韻の柔らかさなどが心地よいワインです。
時間の経過とともによりいっそう風味が開いてくるので、欲を言えばこちらも少し旅疲れを休ませてあげたいところです。すぐに抜栓する場合は、抜栓前にワインの温度が15-16度ほどになるまで調整した上で開けるのがおすすめです。ワインが低い温度のままで抜栓すると、味わいがぐっと内向的で閉じたものになります。
瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)は添加されておらず、ピュアで素朴でナチュラルな味わいのワインですが、抜栓後も不安定な面は感じさせずに3日目ごろまで美味しく飲めます(3日目で飲み干してしまったので、それ以降は不明です)。
キュヴェ名のル ヴァガボンは「放浪者」の意味。エチケット(ラベル)に大きく描かれたギターを肩に、自分らしく自由に生きたいと願うブノワ カミュの想いが込められたワインです。
VDF Blanc L’OXYDA-PIF / ロキシダ ピフ
ヴィンテージ:NV (2014-15)
タイプ:白
産地:フランス ボジョレー地方
品種:シャルドネ 100%
「香りはジュラみたいで、味わいにはミネラル」と書かれたこのキュヴェは、2014年と2015年に収穫されたシャルドネから造られたワインをアカシアの樽で4年以上熟成させ、その熟成途中に自然と目減りする分をウイアージュ(補酒)することなくジュラ地方の伝統的ワインであるヴァン ジョーヌのように仕込んだワインです。
「香りはジュラのようで…」と書かれているだけあって、ヴァン ジョーヌやシェリーを思わせるような力強く個性的な香りがある一方で、「味わいにはミネラル…」とあるように、酸化的なニュアンスや香ばしい旨みと同居して、どこかすっきりとした味わいがあり、若々しく生き生きした印象も受けます。
瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)の添加は行わず、長い忍耐を経て生み出されたこのワインは、ジュラの同様なスタイルのワインと見劣りしないばかりか、テロワールの異なるボジョレーという土地だからこそ得られたであろう唯一無二の個性も備え、成熟した深みと複雑味に硬質なミネラル感を併せ持ったワインに仕上がっています。
インスピレーションでこのワインを造ってみたというブノワ カミュ。当の本人も大好きだというこのワインですが、生産性は非常に悪く「造るのに4-5年かかっちゃうからね」とブノワ自身も愛おしそうに飲んでいました。
キュヴェ名のL’OXYDA-PIF(ロキシダ ピフ)は酸化したという意味のOxydatif(オキシダティフ)とワインという意味も持つPIF(ピフ)をかけて名付けられています。