Le Vin à Poil “Xavier Marchais” – Chap.06
結果が出るのは、僕たちがいなくなってからかもね
Xavier Marchais / グザヴィエ マルシェ
ただ「美味しい」だけでない自然と共存しながら造るワインとは?
グザヴィエ マルシェの名前を聞けば、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
おそらく多くの人は、フランスのロワール地方でワイン造りを始め、一貫して唯一無二の表現力を備えた、奥深いワインを生み出してきた造り手を思い浮かべるのではないでしょうか。
そんなグザヴィエが、成功を収めていたロワールを後にし、リムーザン地方に移住したのが2021年のこと。
グザヴィエは、既に人間の手が深く入り込み過ぎていたロワール地方では実現不可能な「共生農法」を実践するために、あえてブドウ畑がほとんど存在しないリムーザン地方に移ったのです。
この農法は、多様な動植物と共存しながら、持続可能な形でワインを生産するという理想に基づいています。
「アグロフォレストリー」や福岡正信氏の「自然農法」とも思想を共有するこの理想を目指して、彼は、単に「ワインを造る」ことにとどまらず、自然環境全体を豊かに維持しつつ、農作物を育てていく方向へと舵をきったのです。
結果が出るのは次世代になる
リムーザンでのワイン造りはまだ始まっていません。
グザヴィエたちは、ブドウだけでなく、多様な植物を植え、動物を飼い、ビオトープを造り、そこに生きる全てがワインに関わるという遠大なプロジェクトに挑戦しています。
まだ植えたブドウが実をつけるには何年もかかるし、ワインに必要な表現力を持つまでには、さらに時間がかかるのです。
「結果が出るのは、僕たちがいなくなってからかもね」
とさらっと語るグザヴィエ。
自分たちのため”だけ”でなく、次世代のために。彼らは毎日を生きています。
だからこそ彼は、友人たちからビオのブドウを買って、今はワインを造り続けています。
ロワール時代の仲間、そしてリムーザンという立地を活かし、東西南北の友人からブドウを買い、ワインを生み出しています。
ワインのスタイルの変化、あるいは進化
今回リリースする2022年のワイン3種類は、そのすべてが買いブドウから造られたものです。
これらのワインをテイスティングすると、「買いブドウ」だからという理由だけでは説明がつかない、ワイン造りのスタイルの変化を感じます。
今回のワインたちは、赤でも白でも関係なく、驚くほど優しいタッチと、じんわりと広がる果実のフレーバーがあり、優しさに満ちた親しみやすい味わいに仕上がっています。
この変化の鍵を握るのは、彼の現在のパートナーであるモルガンヌ テシエの存在です。
彼女は、かつてのおじいちゃん世代が造ったような素朴で、力強いワインよりも、もっと洗練された、果実味豊かなものを好むと言い、中でも彼女が求めているのは、一口一口がじんわりと沁みわたるようなワインです。
まさにこの理想が具現化されたのが、ロワール時代の最後のブドウで造られた「エリクシール ドゥ トレ ロング ヴィ 2021」でした。
このワインはカベルネ フランから造られました。普通なら、タンニンが強く、じっくり時間をかけて成長を待たなければいけないワインになることが多い品種です。
しかし、このワインは全く違うワインとして誕生しました。
口に含むと、サクランボやイチゴといった赤い果実がふわりと広がり、軽快でフレッシュな飲み心地が感じられる。重厚さよりも、軽やかな生命のリズムを感じるワインとなりました。
このワインを造り出した経験は、グザヴィエとモルガヌの二人にとって、大きな転機となったようです。
その影響は、2022年のワインたちにもはっきりと表れています。柔らかで親しみやすい果実味が、どのワインにも宿っていて、それはまるで、彼らの持つバランス感覚や、一種の穏やかな優しさが、ワイン1本1本に投影されたかのように感じます。
圧倒的なメッセージを持ったロワール時代のシュナン ブラン
今回のリリースの中で、もう1本、特別なワインがあります。
それは、ロワール時代に彼ら自身の手で栽培したシュナン ブランから生まれた「エリクシール ドゥ ジュヴォンス 2020」です。
「余計な介入をしないと決めたら、畑でできることは限られている。だから醸造の時にワインと対話するんだ。」
かつてグザヴィエはこう話してくれました。
このシュナン ブランもまた、そうした静かな対話の中で、ゆっくりと熟成を重ねてきたワインです。
そしてリムーザンへの移住が決まったとき、このシュナン ブランには、まだ対話の時間が必要でした。グザヴィエは、樽に眠っていたこのワインと一緒に引っ越すことにしたのです。
リムーザンの新天地で静かに時間を過ごし、ついにリリースされたこの「エリクシール ドゥ ジュヴォンス 2020」は、言葉ではとても表現しきれないほどの圧倒的な表現力と個性を持っています。
その力強いメッセージは、飲む人をはっとさせ、グザヴィエ マルシェが歩んできた歴史と想いを感じさせてくれるワインとなっています。
ロワールで培った過去と、リムーザンで迎えた未来。そのふたつがグラスのなかで共存する姿に、グザヴィエ マルシェのこれまでの人生の歩みを見ることができる特別なワインです。
Pouic / プイック
ヴィンテージ:NV (2022)
タイプ:白
産地:フランス リムーザン地方
品種:セミヨン、シュナン ブラン
ボルドー地方で多く栽培されるセミヨンと、ロワール地方の白ブドウの代名詞であるシュナン ブランという、普段あまり見かけない品種のブレンドで造られるワイン。こうして、普段出会わない品種を組み合わせてワインの新しい魅力を表現するのが、ル ヴァン ア ポワルのワイン造りの特徴。
アルコール度数11.5%と軽やで、みずみずしい果実味と美しい酸味のバランスによって飲み心地がとても優しいワインに仕上がっています。口に含んだ瞬間に、まろやかで丸みを感じる果実味があり、そこから爽快に口の中に広がる柑橘のフレーバーがあります。特にグレープフルーツやスウィーティー(=柑橘の品種)のようなフレーバーを感じます。
さらに、抜栓して3日しても味に不安定さがなく、しっかりしたバランスを保っているのも魅力です。
このワインは、自然酵母のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。
Chifoumi / シフミ
ヴィンテージ:NV (2022)
タイプ:赤
産地:フランス リムーザン地方
品種:メルロ、グロロー
シフミはフランス版のじゃんけんの事で、語源は日本語の「一(ひ)二(ふ)三(み)」だとか。ワインは大人の男の反省とはかけ離れた子供っぽいもので、楽しくて、直接的で、何も考えずただ飲む瞬間を楽しめばいいものだという意味が込められています。
2年目となる2022年ヴィンテージの味わいは、雨上がりの森を連想させるような、静かで落ち着いたアロマが印象的です。どこか熟成したヴィンテージボルドーワインに通じる深みを持ちながら、ミルクのようなまろやかなテクスチャーが口の中を優しく包み込みます。酸味は丸みを帯びており、シャープさはなく、全体として非常にバランスの取れた仕上がりです。軽快さがありつつもカカオのような香ばしさが感じられ、柔らかで情緒豊かな表現が特徴的です。
さらに、抜栓して3日しても味に不安定さがなく、しっかりしたバランスを保っているのも魅力です。
このワインは、自然酵母のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。
Tortue Jeanine / トリュチュ ジャニーヌ
ヴィンテージ:NV (2022)
タイプ:赤
産地:フランス リムーザン地方
品種:カベルネ フラン、グロロー
キュヴェ名のトリュチュ ジャニーヌは、Tortues Ninja(ニンジャ タートルズ)というアニメにちなんだフランス語のダジャレで、Tante Jeanine(タント ジャニーヌ)=ジャニーヌおばさんという表現から名付けられています。
ジャニーヌおばさんは、「退屈でありきたりだと思うおばさんが、夜になると気立てがよくて活発なパーティーガールに変わるような、非常に意外性のあることがある」ということを表現しています。ここから転じて、このワインも見かけによらないよというメッセージが込められています。
2年目となる2022年ヴィンテージの味わいは、ちょっと意外さもある「古き良きフランス」を彷彿とさせるスタイル。派手さよりも大人っぽさがある、落ち着いた雰囲気の味わいで、じわりじわりと身体に染み込んでいきます。
グラスに注ぐと森に入ったようなしっとりとした香りが立ち昇り、赤いスグリを思わせる華やかな果実感と軽快な酸が特徴的です。青っぽさはまったくなく、チャーミングな果実味と、ほのかに感じるスパイシーなニュアンスが絶妙に調和しています。山や森の果実のような素朴で自然な雰囲気が感じられ、どこかほっとするような安心感を与えてくれます。
さらに、抜栓して3日しても味に不安定さがなく、しっかりしたバランスを保っているのも魅力です。
このワインは、自然酵母のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。
Elixir de Jouvence / エリクシール ドゥ ジュヴォンス
ヴィンテージ:NV (2020)
タイプ:白
産地:フランス ロワール地方
品種:シュナン ブラン 100%
「若さの霊薬」と名付けられたエリクシール ドゥ ジュヴォンス。2021年の夏に新天地に移住したグザヴィエ マルシェですが、このロワールで収穫されたワインは、彼らとともに新天地に移動し、さらなる熟成を経てリリースされました。
ファーストヴィンテージからグザヴィエ マルシェのワインを知る身としては、まさに彼らしい個性が存分に発揮されたワイン。栗の花や蜜のような華やかさと香ばしさが共存した香りがまず感じられ、口に含むと、果実の力強さが爆発的に広がり、非常に活力にあふれ、細胞が踊り出しそうなエネルギーを感じます。
さらには、びしっとしたミネラル感と美しい酸が絶妙なバランスを保っていて、ワインの輪郭をしっかりと感じられるフォーカスの定まった味わいとなっています。余韻も長く、このワインに詰まっている色々なメッセージを感じる1本となっています。
さらに、抜栓して3日しても味に不安定さがなく、しっかりしたバランスを保っているのも魅力です。
グザヴィエ マルシェの手によって育てられたブドウを用いて、自然酵母のみで発酵させ、厳密な濾過(ろか)や清澄も行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸塩(酸化防止剤)無添加で造られています。