Benoît Camus – Chap.05

ブノワ カミュ冬のセラーにて

このブレンド、すごく気に入ってるんだ。いい感じだろ?

Benoît Camus / ブノワ カミュ

フィリップ ジャンボンが生んだ縁

ブノワ カミュのことを語ろうとすると昔話からはじめたくなる。

be a good friendを始めた一番最初から付き合ってくれた友人の一人であり、一番最初に輸入したのも彼のワイン。

そんなブノワとの出会いのきっかけは、ボジョレーの鬼才フィリップ ジャンボンだった。

フィリップがどういう人物かを短い言葉で説明するのは、とてもむずかしい。

むずかしいけれど、単純でもあって、「とにかくぶっ飛んだ造り手だ」で完結させることもできる。

それでもあえて言葉を尽くすなら…

最もハイリスクでハイリターンなルーレットの目にチップを張り続けるような人。

結果生まれるワインは、圧倒的なメッセージが刻み込まれた偉大なワインたち。

ただ、その代償として、何年ものあいだまともな量のブドウが収穫できないという事態にも見舞われる。

当然、「どうやって生活するの?」と心配になる。

多くのフランスの造り手なら、こんなときは「ネゴス」といって、よそからブドウを買ってきてワインを仕込む。でもフィリップは、「自分のワインは、自分の畑のブドウからしか造らない」という。

だから彼はブドウを買う代わりに、すでに完成されたワインを買い付け、それに「フィリップ ジャンボン セレクション」という刻印を押して売り出すことにした。

豚のエチケットの裏側

ナチュラルワインの愛好家なら一度は目にしたことがあるかもしれない、ピンク色のエチケットに豚の絵が描かれたワイン「ユンヌ トランシュ」。

これが、自分の畑で大きな賭けに出続けるフィリップの生命維持装置。

でも、フィリップにとってはそれ以上に意味のある行為でもあった。

当時のボジョレーは、試飲会で「ボジョレーです」と名乗っただけでバイヤーが逃げ出すような、不当な扱いを受けている地域だった。

「飲んでもいないのになぜ逃げる必要があるんだ?」

自然派ワインの父、マルセル ラピエールですら、そんな場面に出くわしたという。

そうした産地のイメージのせいで誰にも見向きされない仲間たちがたくさんいたボジョレー。フィリップは、そんな日陰にいる友人たちにスポットライトを当てようとした。

それが、ユンヌ トランシュ。

だから、ユンヌ トランシュには、ワインを手掛けた造り手の名前がちゃんと記されている。

ブノワの名前をはじめて見たのもこのボトルでだった。

散々飲んできたユンヌ トランシュのなかで、「なんだこれは?」と思わずグラスを見つめ直してしまうような、別格のキュヴェがあった。

ヴィンテージが変わっても、そのワインだけは常に高いテンションを保ち、心を揺さぶる。

だから、be a good friendをスタートした時、フィリップのところに行って、「彼に会ってみたいんだけど」と相談したんだ。

「ブノワならすぐに喜んで会ってくれるよ。なんなら明日行けるんじゃないか」

実際、翌日か翌々日には約束を取り付け、そこから長い付き合いがはじまることになる。

タンクから試飲用のワインを汲み出すブノワ

自分の軸を持つということ

ブノワが造り出すワインのテンションは、初めて飲んだ日から今日に至るまで、見事に維持されている。

これほどの奥行きと表現力を持つワインを造れる人間は、実は、そんなに沢山はいない。

そのうえ、彼のワインはいつだって手の届きやすい価格に収まっている。でも「コスパが良い」なんていう安っぽい言葉では片付けられない説得力が常に彼のワインには備わっている。

ブノワを何度も訪ねるようになって、今感じるのは、「こういう大人になりたいな」と思わせる、カッコいい男性だということ。

彼は、自分が大切にしている価値観の中に、他人の物差しを決して持ち込まない。

常に「自分軸」という確固たるコンパスを持って生きていて、他人の目を気にしない。

たとえば、彼はブドウ畑のど真ん中にキャンピングカーを停めて、そこで生活している。お金がないわけじゃない。街でアパートを借りることもできる。でも彼は「今の僕には必要ないからね。ここでの生活で十分に満ち足りているんだ」と笑う。

着ている服や持ち物も、言ってしまえばボロボロだ。でも、彼にとっては「機能」を果たしていればそれでいいのだ。

彼が愛用している車も、ギアチェンジのレバーがバキバキに折れているのに、彼はそれを器用に操作して走り回る。

普通の人間なら「新しいのを買えば?」と言うところだが、彼にしてみれば「ちゃんと走るんだから問題ない」というわけだ。

そして、無邪気な笑顔で、とてつもなくアクロバティックな運転を披露してくれる。

確かに何も問題ない。

ブノワ カミュセラー入口にて

シワだらけのエチケットと、完璧にチューニングされた液体

そんなブノワ彼の生き様は、そっくりそのままワインのボトルにも表れている。

中に入っている液体は、間違いなく素晴らしい。でも、外観はどうかというと、エチケットがノリでベタベタしていたり、シワが寄っていたり、斜めに曲がっていたりする。「商品は完璧に美しくあるべきだ」という日本の市場基準からすれば、思わず頭を抱えたくなるような状態で届く。

でも、コルクを抜いてグラスに注げば、そこには細部まで彼の感性が行き届いた、しなやかで集中力のあるワインが待っている。

圧倒的なテンションを秘めた液体が、シワくちゃの服を着て立っている。

それもまた「僕という人間はこういうものさ」というメッセージなのだと思う。

だからいつも、「中身は絶対の自信を持ってお届けします。外見については、本人も気にしてないので、気にしないでください。」とお願いすることになる。

自由な発想で生まれたワインたち

今回、そんな彼から、自由な発想で造られた2種類の赤ワインが届いた。

ひとつめは、2023年のガメイ。

「ヴァガボン(放浪者)」という名前がつけられている。

2023年は暑さでブドウの凝縮度が非常に高くなった年。その暑さが、このワインにはしっかりと刻み込まれていて、フレッシュというよりは、複雑でスケール感と風格を感じるワイン。

当然アルコール度数はそこそこ高いのだけれど、飲んでみると不思議なほどそれを感じさせない。

偉大なワインには「見た目の数字よりもアルコールを感じさせない」という共通の法則があるのだけれど、この「ヴァガボン」はまさにそのシグナルを発している。

もうひとつは「シャトー ルーラン(動く城)」

エチケットには、彼の棲み処であるキャンピングカーが描かれている。

驚くべきことに、これは2021年と2023年をブレンドしたワインで、雨が多くて軽快な傾向の2021年と、暑くて濃厚だった2023年。このふたつを混ぜ合わせて、とあるバランスを作り上げた。

そもそも「なんで2023年を瓶詰めするときに、2021年のストックが残ってるの?」という話なのだけれど、そういう適当さ、いや、アーティスト的なひらめきがブノワらしいとも言える。

タンクに残っていた2021年を見て、直感的に「これだ」と思ったんだと思う。そして、その直感は見事に的中している。

ヴァガボンに比べるとアルコール度数は低いものの、口当たりは滑らかで、それでいて、よく熟した果実の凝縮感が口の中にふわりと広がるワイン。

「薄っぺらい」とか「青い」といった言葉は、このワインを語るノートには存在しない。

「このブレンド、すごく気に入ってるんだ。いい感じだろ?」

満面の笑みで、無邪気に聞いてくるブノワ。

彼もまた天才なんだと思う。

+ 造り手詳細

Vagabond / ヴァガボン

ヴィンテージ:NV (2023)
タイプ:赤
産地:フランス ボジョレー地方
品種:ガメイ 100%

ヴァガボンは、「放浪者」の意味。ギターを手に、自分らしく自由に生きたいと願うブノワ カミュの想いが込められたワインです。

ブノワ カミュのワインは、どのキュヴェをどの区画のブドウで造るか、また醸造方法も固定されていません。その年に生まれたワインのイメージや顧客の要望に応じて、キュヴェ名が与えられます。

今回のヴァガボンは、2023年産のガメイによるキュヴェ。2023年は非常に暑く、ブドウの凝縮感が際立った年で、その個性が見事に表現されています。フレッシュさよりも、重厚で複雑。凄みと説得力を備え、奥行きと風格のある、スケール感の大きな仕上がりです。

アルコール度数は比較的高めですが、飲み心地にその強さを感じさせません。数値以上に軽やかに感じられるこの感覚は、偉大なワインにしばしば共通する一つのシグナルであり、このワインもまさにそうした雰囲気をまとっています。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

抜栓後数日たってもバランスを崩すことなく、長く安定した味わいを楽しませてくれます。

Château Roulant / シャトー ルーラン

ヴィンテージ:NV (2021-2023)
タイプ:赤
産地:フランス ボジョレー地方
品種:ガメイ 100%

キュヴェ名の「シャトー ルーラン」は、「動く城」という意味。エチケットに描かれているのは、畑の中に置かれたキャンピングトレーラーと、その前でギターを奏でる人物です。

これはまさに、ブノワ カミュ本人とその自宅を描いた絵。この場所こそが、彼にとっての「城」なのだと思わせてくれる、素敵なデザインです。同時に、伝統的なボルドーワインがラベルに荘園を管理する館=城を描くことへの、オマージュとも言えそうです。

今回のシャトー ルーランは、2021年と2023年をアッサンブラージュ(ブレンド)した、いかにもブノワらしい自由な発想のワイン。2021年は雨が多く、度数も低めで爽やかかつ滑らかな年。一方の2023年は濃さのある年。その2つを合わせることで、絶妙なバランスが生まれています。

表示アルコール度数は12.5%と控えめですが、薄まった印象はまったくありません。口当たりから余韻まで驚くほどスムーズながらもよく熟した凝縮感も広がります。酸っぱい、青い、薄いといった言葉は出てこない、果実の充実感に満ちたワインです。

このワインは、ブドウの果皮等に自生する自然酵母での発酵を経て、厳密な清澄や濾過(ろか)を行わず、瓶詰めに至るまで亜硫酸(酸化防止剤)無添加で造られました。

抜栓後数日たってもバランスを崩すことなく、長く安定した味わいを楽しませてくれます。